SAP Fioriとは、SAPが提供するユーザーエクスペリエンス(UX)フレームワークであり、SAP S/4HANAをはじめとする業務アプリケーションのUIを設計・構築するための標準ツールです。
直感的で分かりやすいユーザーインターフェース(UI)を提供し、レスポンシブデザインを採用しているため、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスからも利用可能です。また、HTML5、JavaScript、CSSといった一般的なプログラミング言語にも対応しており、開発者にとっても使いやすいフレームワークです。
本記事では、SAP Fioriの特徴、提供されるアプリケーションの種類、およびそのメリットとデメリットについて解説します。
1. SAP Fioriとは
はじめに、SAP Fioriの概要や従来のSAP GUIとの違いについて解説します。
SAP Fioriの概要
SAP Fioriとは、ユーザー体験(UX)を重視した業務アプリケーションのUIを設計・構築するためのフレームワークのことです。デスクトップ環境だけでなく、モバイルデバイス(スマートフォンやタブレット)でも利用可能です。直感的でシンプルな画面設計により、SAP初心者でも使いやすくデザインされています。
さらに、SAP Fioriの設計ガイドラインを活用すれば、SAP S/4HANAやその他のSAPアプリケーションを迅速に構築・カスタマイズできます。
従来のSAP GUIとの違い
SAP GUIとは、SAPのアプリケーションにアクセスするために利用されるクライアントアプリケーションのことです。SAP GUIはMicrosoft Windows、UNIX、macOSなど、さまざまなオペレーティングシステムで動作します。
SAP GUIとSAP FioriはどちらもSAPシステムにアクセスするためのインターフェースですが、SAP Fioriはより分かりやすく、直感的なUIを提供しています。SAP GUIではABAP(SAP独自の開発言語)のスキルが求められる一方で、SAP FioriはHTML5、JavaScript、CSSなどのオープンウェブ技術を使用して開発可能なため、より幅広い開発者に利用されています。
動作環境については、SAP GUIが各クライアントPCへのインストールを必要とするのに対し、SAP Fioriはインストール不要でブラウザを通じてスマートフォンやタブレットなどからも利用可能です。以下の表は、SAP GUIとSAP Fioriの主な違いを示しています。
SAP GUI | SAP Fiori | |
画面設計 |
|
|
使用する開発言語 | ABAP(SAP独自の開発言語) | 一般的なプログラミング言語(HTML5、JavaScript、CSSなど) |
動作環境 | デスクトップ上で動作(クライアントPCごとにインストールが必要) | インストール不要でデバイスやブラウザを問わずアクセス可能 |
2. SAP Fioriの特徴
SAP Fioriには、主に4つの特徴があります。
レスポンシブなデザインを採用している
レスポンシブデザインを採用しており、単一のコードベースでPC、タブレット、スマートフォンなど複数のデバイスに最適化された画面表示を提供します。開発者はPC用やスマートフォン用といったデバイスごとの個別開発が不要となるため、開発効率の向上が期待できます。
さらに、Google ChromeやMicrosoft Edgeなど、主要なWebブラウザ間での互換性も確保されています。
オープンウェブ技術を活用している
SAP Fioriの画面開発では、HTML5、JavaScript、CSSなどの一般的なWeb技術を利用できます。SAP GUIで必要とされるABAPスキルと比較して、より広範な開発者層が活用できるようになりました。
また、ユーザーが独自に画面を編集し、柔軟にカスタマイズすることも可能です。
画面とバックエンドサーバーのプログラムを分離している
SAP Fioriの特徴として、画面側とバックエンドサーバー側のプログラムを明確に分離している点が挙げられます。具体的には、バックエンドサーバー(SAP ERP)側ではABAPを使用し、フロントエンド側の画面ではHTML5、JavaScript、CSSなどのオープンウェブ技術が採用されています。
プログラムの分離により、バックエンドサーバー側のABAPスキルを持たない開発者でもフロントエンド画面の開発が可能になっています。
豊富な開発ツールを利用できる
SAP Fioriの画面開発を効率化するために、SAP社が提供する開発ツールを活用できます。例えば、SAP UI5ライブラリを利用することで、SAP Fioriのデザインガイドラインに準拠したアプリケーションを構築できます。
また、SAP Web IDEを活用することで、開発環境のセットアップや管理に要する時間を大幅に短縮できます。
3. SAP Fioriが持つ4種類のアプリケーション
ここでは、SAP Fioriが持つ4種類のアプリケーションについて解説します。
Transactional Apps(トランザクション)
伝票などの取引情報を登録・更新・参照できるアプリケーションです。例えば、受発注データなどに関する伝票を登録・更新・参照したり、従業員の出張申請や有給休暇申請などを確認・承認したりすることができます。
デスクトップだけでなくスマートフォンやタブレットなどのデバイスからも登録や承認が可能なため、リモートワークを導入している企業にとって便利です。
Fact Sheets Apps(ファクトシート)
伝票情報やマスタ情報などを検索・閲覧できるアプリケーションです。他のSAPアプリケーションを開かなくてもFact Sheets Apps上でさまざまなデータを確認できます。
さらに、Fact Sheets AppsからTransactional Appsに遷移して伝票情報を更新することも可能です。
Analytical Apps(アナリティクス)
グラフなどを用いて視覚的な分析を行うことができるアプリケーションです。データの比較や傾向予測などを直感的に行うことができます。
Smart Business(スマートビジネス)
ビジネス上のさまざまなデータを分析・評価できるアプリケーションです。例えば、ビジネスにおいて重要な指標となるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)などをリアルタイムに確認し、迅速な意思決定や経営判断につなげることが可能です。
4. SAP Fioriのメリット
SAP Fioriの主なメリットとしては、次の3点が挙げられます。
さまざまな業務に適用できる
SAP Fioriは、販売管理や生産管理、在庫管理、財務会計管理、購買管理、人事労務管理といった幅広い業務に対応可能です。企業の基幹業務に関するトランザクションを一元的に処理することができます。
また、企業内のさまざまなデータをリアルタイムに確認・更新・分析できるため、迅速な経営判断や意思決定にも寄与します。
自社の業務要件に合わせてカスタマイズしやすい
SAP Fioriでは画面を柔軟に変更できるため、自社の業務要件に合わせてカスタマイズしやすい点もメリットです。バックエンドのサーバー側でデータを一元管理しつつ、フロントエンドの画面は業界や業種、ビジネスモデル、商習慣に適した形式に調整することができます。
そのため、販売、生産、流通など独自の業務体系を持つ企業でも、自社のニーズに合致するシステム設計が可能です。
UIがシンプルで操作しやすい
SAP Fioriはユーザー中心の画面設計を採用しており、直感的な利用が可能なUIを実現しています。またPCだけでなく、タブレットやスマートフォンなど複数デバイスで利用できるため、外出先でも簡単に利用できる点が特徴です。
開発者にとっても、UIが分かりやすいため開発効率の向上や運用コストの削減が期待できるという利点があります。
5. SAP Fioriのデメリット
SAP Fioriのデメリットについては、次の点が考えられます。
SAP Fioriを扱える人材の調達や育成が必要となる
SAPシステムは世界中の企業で利用されていますが、日本ではSAPの開発者が不足しているのが現状です。そのため、SAP Fioriを含むSAPシステムを扱える人材の採用や外注に高いコストがかかる可能性があります。
ただし、SAP FioriはHTML5やJavaScriptなどのオープンウェブ技術に対応しているため、従来のSAPシステムと比べれば開発者の確保は比較的容易でしょう。
6. まとめ
SAP Fioriとは、SAP S/4HANAなどの業務アプリケーションを作成できる設計システムです。従来のSAP GUIと比べて、ユーザー中心の画面設計により直感的な操作が可能であり、デバイスやブラウザを問わず複数の環境から利用できます。
SAP Fioriでは、伝票情報やマスタ情報の検索・閲覧・更新、従業員の出張申請や有給休暇申請の確認・承認が可能です。また、グラフを用いた視覚的な分析やリアルタイムのKPI分析などにも対応しています。
さらに、自社の業務要件に合わせたカスタマイズが容易であり、販売、生産、財務会計といった幅広い業務のトランザクションを一元的に処理できます。これにより、企業の業務効率化や迅速な意思決定に大きく貢献するでしょう。