SAP ERPは多くの業務プロセスをカバーできる高機能な製品です。一方で、自社のニーズによっては対応できない領域も存在します。そこで検討したいのが、周辺システムの活用です。SAP ERPと周辺システムをうまく連携させることで、SAP ERPの価値を高めつつ、アドオン開発を避けてSAP導入を実現できます。この記事では、SAP ERPの導入にあたって周辺システムを活用するメリットや具体的な連携プロセスなどをご紹介します。
1. SAP ERPの周辺システムとは
SAP ERPには販売、製造、財務会計など多様な機能が備わっています。しかし、自社の業務を実施するうえでカバーできない領域については、ほかのシステムと併用したほうがよいケースもあります。
SAP ERPとの併用によって有効活用できるシステムを、SAP ERPの周辺システムと呼びます。SAP ERPの周辺システムの具体例は以下のとおりです。
- SAP製品
SAP Business Technology Platform(データ、AI活用)、SAP Ariba(調達管理高度化)、SAP Concur(経費精算)など - SAP外の製品
CRM(Customer Relationship Management)システム、RPA(Robotic Process Automation)、データウェアハウスなど
2. 周辺システムを活用するメリット
SAPの周辺システムを利用するメリットは以下のとおりです。
SAPで対応できない業務への対応
SAPは幅広い機能を備えた強力なERPシステムですが、すべての業務に対応できるわけではありません。特定の業務や業界固有のニーズなどに対応するためには、SAPの周辺システムを活用することが有効です。
従来、SAPに不足する機能については、アドオン開発によって対応していました。しかし、近年では各社からさまざまなクラウドサービスが提供されており、これらをうまく活用することでアドオン開発を避けられるケースが増えています。
アドオン開発には多くの期間とコストがかかり、将来のバージョンアップ対応においても足かせとなりがちです。周辺システムをうまく組み合わせれば、アドオン開発を最小化し、効率的なSAP導入を実現できます。
データ活用の実現
SAP上に格納されたデータは企業の大切な資産となります。これらのデータを最大限に活用するためには、データ分析やBIツールなどとの連携が有効です。
データ分析用の周辺システムを導入することで、SAPのデータを活用し、リアルタイムでの分析や高度なデータマイニングを実施できるようになります。また、データウェアハウスなどのデータ基盤とSAPを連携させれば、SAPのデータとSAP外のデータを一元的に管理できます。これにより、SAPの販売データとCRMの顧客データのクロス分析などが可能となり、データ活用の幅がさらに広がるでしょう。
DXの実現
SAPと周辺システムを連携させると、業務プロセスの自動化や新たなビジネスモデルの構築など、DXの推進も可能です。たとえば、IoTデバイスから得られるデータをSAPに統合し、リアルタイムでの生産管理や予知保全を実現可能です。また、クラウドサービスやAI技術を活用し、業務効率化を図る取り組みも考えられます。
このように、SAPのデータをうまく使いつつ、周辺システムと併用することで、DXの推進を加速させられます。
3. 周辺システムとの連携方法
具体的に、SAPと周辺システムを連携させるためにはどうすればよいのでしょうか。以下では、周辺システムとの連携方法について詳しく解説します。
連携方式の検討
まずは連携方式の検討が必要です。SAPと周辺システムの連携方式はさまざまですが、ここではよく利用される「BAPI」「IDoc」「REST API」の3つの連携方式をご紹介します。各方式の特徴を考慮し、最適な方法を選定しましょう。
- BAPI (Business Application Programming Interface)
BAPIは、SAPビジネスオブジェクトにアクセスするために用意されている、標準化されたSAPのインタフェースです。リアルタイムでデータを交換できる点が特徴で、開発コストはかかるものの、複雑な業務ロジックを構築できます。 - IDoc (Intermediate Document)
IDocは、SAPと周辺システム間でのデータ交換を可能とする、メッセージベースのインタフェースです。低コストで保守性の高いデータ連携を実現できる点が特徴です。バッチ処理など大量のデータを一括で処理する場合などに採用されます。 - REST API
REST APIは、HTTPプロトコルを使用してデータを交換する汎用的なインタフェースです。SAP標準の仕組みではありませんが、多くのモダンなアプリケーションで採用されている方式です。柔軟性とスケーラビリティに優れており、SAP外のWebサービスやクラウドサービスとの連携にも適しています。
連携仕様の調整
SAPと周辺システムの連携を成功させるためには、事前に連携仕様を詳細に調整する必要があります。具体的には以下の観点を押さえましょう。
- データのマッピング
両システム間のデータ項目の対応関係を明確にし、必要な変換ルールを定義します。「SAP上のデータAは連携先システムのデータXと対応する」のように、両者のひもづけを行います。このとき、両者のデータ形式をチェックすることも重要です。たとえば、データAは10桁の文字列である一方で、データXが12桁である場合は、何らかの変換ルールで両者の整合性を合わせます。
- トランザクション管理
両システム間で、どのようにデータを同期するかを定義します。連携タイミングや頻度、エラー時の処理や再送信のルールなどを整理しましょう。たとえば、比較的リアルタイムにデータ連携が必要となる場合は、各システムの締め後、夜間の時間帯に日次で連携を行います。一方で、リアルタイムな連携が不要な場合や、定期的に更新されるデータについては、月次など頻度を落として連携します。
連携ツールの活用検討
SAPと周辺システムを連携する際には、連携ツールの活用を検討しましょう。連携ツールは、開発工数の削減や運用の効率化に大きく寄与します。たとえば、SAPのツールとして提供されている「SAP NetWeaver PI/PO」や、いわゆるiPaaS(Integration Platform as a Service)と呼ばれるクラウドベースの連携ツールなどの活用がおすすめです
ツールの活用により、両システム間でデータを変換したり、通信エラー時の再送処理を行ったりすることができます。
開発・テスト
SAPと周辺システムを連携するために、連携機能の開発とテストを行います。作成した連携仕様に基づき、データの出力、変換、入力などを実施しましょう。
テストまで完了したら、本番環境への移行を行い、機能をリリースします。移行後も、連携機能がうまく動作しているか、継続的にシステムのモニタリングとサポートを行ってください。
4. 主な周辺システムと活用例(SAP製品)
以下では、SAP ERPと連携して活用できる周辺システムをご紹介します。まずは、SAP製品を対象に、主要なシステムをとりあげます。
SAP Business Technology Platform
SAP Business Technology Platform (BTP) は、データ管理、分析、AI、機械学習、アプリケーション開発など、デジタル変革を多岐にわたって支援する統合的な環境です。SAP ERPと組み合わせることで、データのサイロ化を防ぎつつ、データの統合管理を実現できます。
BTPには様々な機能が含まれます。たとえば本格的なアプリケーション開発を実現するSAP Business Application Studio(BAS)や、ローコード/ノーコードでの開発に対応したSAP Buildなどが挙げられます。
その他にも、SAP Build Process Automationの自動化機能により、繰り返しの業務やデータ処理の自動化を実現できます。さらに、SAP Integration Suiteの活用により、オンプレミスとクラウドで異なるアプリケーションやデータソースを連携させ、業務プロセスを一元化することもできます。
また、SAP Data Intelligenceでは、異なるデータ環境に散らばるデータ管理を自動化することも可能です。
このように、さまざまな機能を備えるSAP BTPは、リアルタイムな意思決定を支援できる、今注目のツールといえるでしょう。SAP ERPの導入時に、自社のデータ活用を強化したい企業におすすめの選択肢です。
SAP Ariba
SAP Aribaは、購買と供給プロセスの管理のためのクラウドベースのソリューションです。調達プロセスの効率化とコスト削減を実現します。SAP ERPと統合して利用することで、調達から支払いまでのプロセスを自動化・高度化できる点がメリットです。また、購買データの一元化やリアルタイムでの把握も可能となります。
SAP Aribaは、SAP ERPの導入と併せて自社の購買機能を強化したい企業におすすめです。これまで部署ごとに個別の購買システムを利用していた場合は、SAP ERPによる業務の標準化に加えて、SAP Aribaの導入による購買機能の高度化が有効となります。
SAP Concur
SAP Concurは、経費精算のためのクラウドベースのソリューションです。経費精算を効率化し、承認プロセスを自動化します。出張申請や予約から、経費精算処理、請求書の処理などを一元的に実現可能です。
SAP ConcurとSAP ERPを連携させれば、経費データが即座にSAP ERPに反映され、効率的に仕訳データを作成できます。経費精算は一般的な企業では必須の機能です。SAPとの連携性に優れるSAP Concurを利用することで、手間をかけず経費精算システムを導入・運用できます。
SAP Customer Experience
SAP Customer Experienceは、マーケティング、コマース、セールスなどの機能を備えた、顧客体験管理のための統合ソリューションです。いわゆるCRM(Customer Relationship Management)ソリューションであり、SAP ERPとの連携により、顧客の購買履歴やサービス履歴をリアルタイムで把握できるようになります。これにより、手厚い顧客サービスを提供できます。
SAP Commerce Cloud
SAP Commerce Cloudは、エンタープライズ向けのeコマースプラットフォームです。SAP Commerce Cloudの導入により、スムーズなオンライン取引をサポートできます。
SAP ERPと連携させれば、在庫情報や注文情報の共有化が可能です。これにより、正確な在庫管理と注文処理を実現できるでしょう。また、前述したSAP Customer Experienceとの併用により、顧客情報と購買情報のクロス分析も行えます。
さらに、SAP Commerce CloudにはAIによるインテリジェントコマースのような高度な機能も用意されており、コンバージョン率の向上が期待できます。
SAP Sales Cloud
SAP Sales Cloudは、営業チームの効率化とパフォーマンス向上を目指すためのソリューションです。いわゆるSFA(Sales Force Automation)ツールとして、顧客管理、見積作成、契約管理などの機能を提供します。SAP ERPと連携させることで、営業活動がリアルタイムで財務データに反映され、正確な予測が可能となります。
SAP Sales Cloudの導入により、販売プロセスが合理化・自動化され、AIベースのレコメンデーションにも活用できます。これらは営業担当者にとって強力な武器となるでしょう。
SAP SuccessFactors HCM
SAP SuccessFactors HCMは、クラウドベースの人事管理ソリューションです。人事管理、給与計算、採用、オンボーディング、パフォーマンス管理、人材育成など、人事領域に関する幅広い機能を提供します。SAP SuccessFactors HCMとSAP ERPを連携させれば、人事データを共有化し、統合的な人材管理を実現できます。
また、SAP SuccessFactors Workforce Analyticsを利用することで、自社の要員分析も可能となります。人材配置を検討する人事部やマネジメント層の方に有効なツールです。
5. 主な周辺システムと活用例(SAP外製品)
続いて、SAP ERPと連携して活用できる周辺システムについて、SAP外の製品をご紹介します。
CRM
CRMは、自社の顧客情報や顧客との関係性を管理するためのシステムです。企業が顧客との関係を管理し、強化するうえで役立つさまざまな機能を備えています。CRMで顧客データを一元管理することで、マーケティング、販売、カスタマーサービスの向上を図れます。
たとえば、見込み顧客についてはCRMで管理しつつ、契約を締結した時点でSAP ERPへ顧客データを移行し、受発注処理を継続して実施することが可能です。また、CRMとSAPのデータを統合し、一元的に顧客に関するデータ分析を行うユースケースも考えられます。
このように、CRMとSAP ERPをうまく組み合わせることで、自社の業務効率化や高度なデータ活用を実現可能です。
RPA
RPA(Robotic Process Automation)は、定型的な業務を自動化する技術です。あらかじめ処理内容を学習させたソフトウェアロボットにより、データ入力や処理などの作業を自動化することで、効率と生産性を向上させます。
RPAのユースケースとして、大量にSAPにデータを登録する際、RPAを用いて作業を効率化する使い方が考えられます。自社の基幹システムとして大量のデータを取り扱うSAP ERPと、繰り返し業務の効率化に有効なRPAは相性が良く、RPAをうまく活用することでSAPを利用する業務の大幅な効率化が可能です。
データレイク・データウェアハウス
データレイクやデータウェアハウスは、企業のデータを一元管理するためのデータ基盤です。SAPとこれらのデータ基盤を連携させることで、SAP上のデータだけではなく、他システムで生成されたデータを合わせて一元的に蓄積し、データ活用を進められます。
もちろん基幹システムとなるSAP ERP自体にも大量のデータが存在しますが、それらとほかの社内データを組み合わせれば、ユースケースを広げられます。
AI
近年では、技術の進歩により企業におけるAIの活用も進んでいます。機械学習、自然言語処理、画像認識などの技術を利用し、自社の業務を効率化したり、高度化したりすることが可能です。
AI活用における最大のポイントはデータの確保です。自社のあらゆる業務プロセスをカバーするSAPはデータの宝庫であり、AI活用との相性は非常に良いといえるでしょう。SAP上に蓄積されたデータをもとに、さまざまなAI活用のユースケースを実現できます。
BI
BI(Business Intelligence)は、企業の意思決定を支援するためのデータ分析技術やツールのことです。SAPから抽出したデータをもとに、BIを用いてレポートやダッシュボードで可視化することで、経営層や各部門の戦略的な意思決定をサポートできます。
SAPには財務データや販売データなど、自社に関するあらゆるデータがそろっており、経営層が事業の状況を把握するために利用可能です。SAP上のデータをBIにより可視化すれば、これらのデータをわかりやすい形で提供できます。特に、経営層向けに一目でわかる形でデータを提供できる点は、BIとSAPを組み合わせる大きなメリットといえます。
6. まとめ
この記事では、SAP ERPと連携して活用できるさまざまな周辺システムについてご紹介しました。基幹システムであるSAPと各周辺システムをうまく組み合わせることで、アドオン開発を行うことなく、多くのユースケースをカバーできます。SAP ERPで対応できない要件がある場合は、まずSAP社もしくは他社のシステムにより実現できないか、検討してみることをおすすめします。