GROW with SAPとは?中堅中小企業向けERP導入を支援するソリューションを解説

 クラウドERP導入ガイド編集部

GROW with SAPとは、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」や「SAP Business Technology Platform(BTP)」などを包括した中堅・中小企業向けのソリューションです。GROW with SAPを導入することで、業界のベストプラクティスを反映したクラウドERPを迅速に導入でき、財務や製造、販売などさまざまな業務の効率化につながります。

本記事では、GROW with SAPの概要や機能、導入事例について解説します。

1.GROW with SAPとは

はじめに、GROW with SAPの概要や構成要素、RISE with SAPとの違いについて解説します。

GROW with SAPの概要

GROW with SAPとは、SAPのクラウドERPである「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、導入加速化サービスやコミュニティ、学習機能などを備えた包括的ソリューションです。

大手企業を対象としたSAPシステムが多いなかで、GROW with SAPは中堅・中小企業のニーズに合わせたパッケージとなっています。

GROW with SAPの構成要

GROW with SAPの主な構成要素は以下のとおりです。

1.SAP S/4HANA Cloud Public Edition

最新の業種別ベストプラクティスを反映したクラウドERPであり、事前設定済みプロセスを適用することですぐに利用開始できます。ガイド付きの導入プロセスや迅速な技術設定、役割ベースの直感的なインターフェースで、SAPの操作に不慣れな担当者でも使用しやすくなっています。

AIやRPA(ロボティックプロセスオートメーション)といった先端技術が随時反映されていくため、ユーザー側で大規模なIT投資をしなくても最新のテクノロジーを活用可能です。

2.SAP Business Technology Platform(BTP)

アプリケーション開発やデータ分析を行うためのプラットフォームです。ローコード/ノーコードソリューションによって、コードを記述することなくアプリケーションや自動化プロセスの開発・拡張を行えます。

生成AIコパイロットを活用し、人間と会話するような感覚でSAPアプリケーションへの指示を行うことも可能です。SAPの統合機能によって、さまざまなAPIやコネクターを活用したり、外部のクラウドシステムにアクセスしたりできます。

3.SAP Activate

クラウドERPを効率的に導入していくためのガイダンスツールや方法論をまとめたフレームワークです。テンプレートや自動化アクセラレーターを使用することで、クラウドERPの設定やシステム移行、テストなどに要する時間を短縮できます。

豊富なカスタマーサンプルデータを用いて、自社の要件に合ったSAPのベストプラクティスを可視化し、明確なイメージを持ちながら円滑に導入を推進することが可能です。

4.コミュニティ・学習サービス

SAPコミュニティでは、世界中のGROW with SAPのユーザーやSAPエキスパート、パートナーが情報交換や交流を行えます。新機能リリースに関する動画やブログを閲覧したり、製品のエキスパートトレーニングに参加したりすることも可能です。

学習サービスには、eラーニングやライブセッション、ラーニンググループなどがあり、GROW with SAPに関連する知識を深められます。例えば、eラーニングではアプリケーションのライフサイクル管理やプロセスの統合、拡張ツールの評価などを学べます。

GROW with SAPとRISE with SAPの違い

RISE with SAPとは、オンプレミス環境のSAP ERPシステムの刷新や業務プロセスの変革などを支援するサービスです。GROW with SAPとRISE with SAPは、どちらも包括的にクラウドERPの導入を支援するソリューションですが、主に以下の点において違いがあります。

  GROW with SAP RISE with SAP
コアとなるソリューション SAP S/4HANA Cloud Public Edition
(SaaS 型クラウド ERP)
SAP S/4HANA Cloud Private Edition
(組織固有の変革に合わせてカスタマイズできるクラウド ERP)
導入方式 グリーンフィールド方式
(新規でS/4HANA環境を構築し、旧システムから必要なデータを移行 )
グリーンフィールド方式
または
ブラウンフィールド方式(旧環境の設定内容やデータを新環境へそのまま移行)

 

2. GROW with SAPの主な機能

続いて、GROW with SAPの主な機能について解説します。

財務

GROW with SAPには、次のような財務に関する機能があります。

機能例 概要
財務計画 予測シミュレーションなどにより、全社レベルで財務計画の作成や実行、監視を行える
財務管理 財務データのドリルダウン検索や分析レポートの利用が可能
ソースの統合 財務データと処理プロセスのソースを統合することで、複数の会計原則や元帳評価に対応可能
財務取引の記録 財務データの転記や割当、状況処理を自動化でき、財務処理を効率的に行える
グループ決算の統合 グループ決算をリアルタイムにまとめて可視化でき、グループ全体での決算業務の効率化やガバナンス強化につながる
未収金管理 未処理債権などを管理し、不良債権の削減を図れる
コンプライアンス状況の監視 各拠点のコンプライアンス違反や事業リスクなどをリアルタイムに確認できる
伝票検証 伝票を自動登録や修正、整合性の検証を行える
資金管理 銀行口座のライフサイクルを一元管理し、資金の運用状況を監視できる
支払いの統合 ワークフローの自動化とセキュアな銀行通信によって、社内および社外の支払を統合できる

 

製造

GROW with SAPには、次のような製造に関する機能があります。

機能例 概要
需要予測 供給能力や生産能力の制約を踏まえた需要予測のシミュレーション
生産稼働率の最適化 各作業の生産能力を監視して指図の優先順位付けを行うことで、生産リソースの稼働を最大化する
資材の自動発注 生産計画に基づき資材を自動発注し、オンタイムで利用可能
製造プロセス管理 かんばん方式やジャストインタイム方式などのさまざまな製造プロセスを適用できる

 

調達・購買

GROW with SAPには、次のような調達・購買に関する機能があります。

機能例 概要
効率的な承認機能 自動リマインダーや自動通知などにより、購買発注の承認を効率的かつ確実に行える
支出管理 生産予測に基づき柔軟に価格を調整することで、最適な価格設定を行える
サプライヤーのリアルタイム評価 調査ツールによってサプライヤーを迅速に分類、評価、算定できる
請求書管理 AI・機械学習を活用することで請求書管理を自動化し、従業員の手間や作業時間を削減できる

 

販売

GROW with SAPには、次のような販売に関する機能があります。

機能例 概要
受注管理 AIを活用した効率的な受注管理やリアルタイムでの在庫状況などの確認を行える
請求処理の自動化 請求伝票の登録や管理、出力などのプロセスを自動化できる
返品管理 迅速な返品プロセス処理やサプライヤーへの転送機能により、顧客クレームに柔軟に対応できる
価格管理 複合的な価格モデルの設定や価格のリアルタイム更新によって利益率の確保につながる
販売リベート管理 顧客ごとのリベート契約の登録や決済伝票の生成、債権・債務金額の登録を行える
販売分析 販売実績KPIの可視化や将来的な販売傾向の予測を行える

 

3. 中堅市場にも拡大しているSAP

SAPは大企業向けのイメージを持たれている方も多いですが、近年ではSAP S/4HANA Cloud Public Editionを中心に、中堅市場でも導入が進んでいます。中堅市場でも導入が進んでいる主な理由には、中堅中小企業向けオファリングである「GROW with SAP」を、短期間かつ定額で導入するパートナー・パッケージ・プログラムが開始されたことが挙げられます。

SAP S/4HANA Cloud Public Editionをベースとしたクラウド型の標準的な導入方法が定着し、さまざまな業種や規模の中堅中小企業向けにパッケージ提供が可能となりました。対象業種や標準的な業務プロセス、導入期間、導入費用を明確化することで、導入範囲を正しく合意形成したうえで導入プロジェクトを開始できます。

また、導入範囲の明確化によって、プロジェクト開始後の追加費用を抑えられるため、低リスクでクラウドERPを導入できるようになり、中堅中小企業でも取り入れやすくなったのです。ここからは、中堅中小企業の具体的な導入事例を3つ紹介します。

赤城乳業株式会社

「ガリガリ君」など多くの冷菓を製造・販売している赤城乳業株式会社は、PSI(生産・販売・在庫)の可視化に向けて 2014年よりSAP ERPを導入しています。しかし、度重なるアドオン開発やバージョンアップ対応が大きな負担となっていました。

また、現場主体で情報抽出ができる環境整備によりデータ活用を加速させ、業界標準を見据えたBPRの推進を進めたいと考えていました。そこで同社は、オンプレミス環境で利用していたSAP ERPからSAP S/4HANA Cloudへの移行を決断。

販売や会計など基幹業務はFit to Standardで実装しながら、差別化領域となる固有業務は、ノーコード・ローコードツールを駆使しながら仕組みを実装できる点を評価しました。

クラウド移行の結果、運用コストの削減やシステム連携の強化、データ活用の促進を実現する新たな基盤を整備することができました。また、SAP Signavioを用いた業務プロセスの可視化とプロセスマイニングにより、エンド・ツー・エンドでの業務透明性を高め、継続的な改善を推進できるようにもなった事例です。

株式会社エイト日本技術開発

総合建設コンサルタントとして、地域のインフラ課題の解決に取り組む株式会社エイト日本技術開発は、2030年までに「次世代創造企業」への変革を目指し、ESG経営や新分野への進化、バリューチェーンの一元化を掲げてDXを推進しています。

既存システムはオンプレミス環境での個別最適化が進み、多重入力や紙依存など非効率な業務プロセスが課題となっていました。そのため、DXプロジェクトを通じて業務プロセスを効率化し、作業から思考主体の働き方への変革を図る必要性が高まっていたのです。

そこで同社は、新システムの中核として、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の導入を決断。建設コンサルタント業界での豊富な導入実績、事業に対応可能な管理会計・財務会計が融合していること、事業の国際化に欠かせないグローバルへの対応力が決め手となりました。

また、BIツールとしてSAP Analytics Cloud、人事管理にはSAP SuccessFactors、従業員エクスペリエンス管理にはEmployee Experience Management solutions from SAP and Qualtrics、経費精算管理にはSAP Concurなど周辺領域にもSAPのソリューションを採用。

導入によって、リアルタイム経営の実現や全体システムと統合された人材管理の向上が期待されています。同社は今後、標準工程を基盤とした効率的な人材育成や、スキルの在庫管理に基づく迅速な応札判断の実現を目指しています。

第一稀元素化学工業株式会社

第一稀元素化学工業は、多種多様な工業品に使われるレアアース化合物「高機能ジルコニウム」の生産・販売において、世界でもトップクラスの実績を誇る企業です。同社は、全社の経営課題であるDXの実現を見据え、グローバルビジネスのさらなる加速に向けて個別に運用してきた、海外の販売拠点のシステム統合を課題としていました。

もともとはオンプレミス型のECC6.0の継続運用を検討していましたが、導入期間などを踏まえ、グローバル拠点へのスピーディな展開が可能なSAP S/4HANA Cloudの導入を決断。導入パートナーと実施したPoCにおいて、期待以上の成果が出た点も大きな決め手となりました。

導入後は、サーバーなどの運用負荷が軽減され、情報システム部門がより創造的な業務に注力できるようになりました。また、四半期毎にアップデートされるSAP S/4HANACloudの最新機能をいち早く活用できるようになり、ビジネス環境変化への対応力向上にもつながっています。

まとめ

GROW with SAPは、SAPのクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、導入加速化サービスやコミュニティ、学習機能などを備えた包括的ソリューションです。中堅・中小企業向けのソリューションであり、最新の業種別ベストプラクティスを反映したクラウドERPをスムーズに利用できます。

また、ローコード/ノーコードソリューションによって、プログラミングのスキルに依存せず、アプリケーションや自動化プロセスの開発・拡張を行えます。

GROW with SAPの利用促進のためのコミュニティや学習サービスも充実しており、情報交換や交流、eラーニング、ライブセッションといった機会も提供されているため便利に活用できるでしょう。

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