SAPの代表的なERPモジュールとは?初心者向けにその役割を紹介

 クラウドERP導入ガイド編集部

SAPのERPには、モジュールと呼ばれる機能で構成されており、主に「会計系」「ロジスティクス系」「人事系」「その他」の4つの分類があります。各モジュールの特徴や役割を理解し、適切に組み合わせることで、業務プロセスの最適化やコスト削減、意思決定の迅速化を実現可能です。本記事では、SAPの主要モジュールについて詳しく解説します。

SAPモジュールの特徴

SAPは、企業の業務プロセスを統合的に管理するERP(Enterprise Resource Planning)ソリューションで、世界中の企業に採用されています。その最大の特徴は、全モジュールが単一のマスターとデータベースを共有し、完全に統合されている点です。

たとえば、財務を管理するFIモジュール、物流を支えるMMモジュール、人事を扱うHRモジュールなど、各モジュールが独立しながらもリアルタイムで相互連携します。統合管理により、データの一貫性が保たれ、部門間での情報共有がスムーズに行われます。

SAPのこの仕組みは、企業全体の業務効率を向上させるだけでなく、正確で迅速な意思決定を可能にする点で他のERPとは一線を画しています。

SAPモジュールの分類

SAPのERPシステムは、データを統合管理して業務プロセスを柔軟に効率化するため、複数のモジュールで構成されています。

主なモジュールは以下の4つです。

モジュール 概要
会計系モジュール 財務データやコスト分析を管理し、法的要件への対応を支援します。
ロジスティクス系モジュール 供給チェーン全体の効率化を図り、販売、在庫、品質、生産などをサポートします。
人事系モジュール 組織運営を支えるため、従業員情報管理や勤怠・給与計算を自動化します。
その他のモジュール プロジェクト管理やレポート生成など、特殊な業務を補完するモジュールです。

会計系モジュール

会計系の主要モジュールは以下の2つです。

  • FI:Financial Accounting(財務会計)
  • CO:Controlling(管理会計)

会計系モジュールは、企業の財務管理を支援する中核的な役割を持ちます。財務会計(FI)では法令に基づく財務報告を、管理会計(CO)では内部管理のためのコスト分析を行います。

例えば、FIのサブモジュールである総勘定元帳会計(GL)は、企業の財務状況を包括的に把握するための基盤となり、法的報告にも対応可能です。また、固定資産会計(AA)は、資産の取得や減価償却を管理し、正確な財務諸表作成に貢献します。

COモジュールの製品原価計算(PC)では、製造プロセス全体のコストを分析し、生産性向上や利益率の改善を支援します。

各モジュールの機能について、詳しく見ていきましょう。

FI:Financial Accounting(財務会計)

「FI:Financial Accounting」は、企業の財務データを管理し、財務報告を行うために使用される財務会計モジュールです。国際財務報告基準(IFRS)に準拠しており、法的要件を満たした財務管理を支援します。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
GL:General Ledger Accounting(総勘定元帳会計) 企業のすべての財務取引を記録し、財務会計の中心的な役割を果たします。
企業は財務状況の全容を把握でき、法的報告や管理報告に必要なデータを提供します。
複数の会計基準に対応しており、セグメント別や販売費用別の会計もサポートします。
AR:Accounts Receivable(売掛金管理) 顧客からの請求書発行と入金処理を管理します。
顧客の未収金を正確に追跡し、信用管理や財務報告をサポートします。
これにより、企業はキャッシュフローの効果的な管理が可能です。
AP:Accounts Payable(買掛金管理) 仕入先への請求書処理と支払いを管理します。
仕入先のアカウントを管理し、請求書処理や支払いのタイミングを最適化することで、企業の資金流出を効率的に管理します。
AA:Asset Accounting(固定資産会計) 企業が所有する固定資産の取得、減価償却、廃棄などを管理します。
資産の正確な評価と報告が可能となり、財務諸表作成において重要な役割を果たします。
BL:Bank Accounting(銀行会計)

銀行取引の管理を行います。
現金管理や銀行明細書処理、銀行口座と企業記録の照合などが含まれます。

企業は現金残高や銀行取引を正確に把握し、財務状況を適切に管理することが可能です。

CO:Controlling(管理会計)

「CO:Controlling」は、企業の内部報告とコスト分析を支援するための管理会計モジュールです。COにより、企業は効率的な意思決定と財務戦略の展開が可能となります。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
CEL:Cost Element Accounting(原価要素会計) コストと収益を分類し、追跡するための基盤を提供します。
CCA:Cost Center Accounting(原価センター会計) 企業内の各部門や活動タイプ別にコストを追跡し、管理します。
これにより、各部門のコストパフォーマンスを評価し、最適化することが可能です。
OPA:Internal Orders(内部指図) 特定のプロジェクトや活動に関連するコストを管理するためのツールです。
プロジェクトごとのコストを詳細に追跡し、分析できます。
PC:Product Costing(製品原価計算) 生産コストを正確に計算し、製品ごとのコスト分析を行います。
生産効率の向上とコスト削減が可能となります。
PA:Profitability Analysis(収益性分析) 市場セグメントごとの収益とコストを分析し、企業の利益率を最適化するためのツールです。
製品や地域別の収益性を評価できます。

ロジスティクス系モジュール

ロジスティクス系の主要モジュールは以下の4つです。

  • SD:Sales and Distribution(販売管理)
  • MM:Materials Management(在庫購買管理)
  • PP:Production Planning(生産計画・管理)
  • QM:Quality Management(品質管理)

ロジスティクス系には、販売管理(SD)や在庫購買管理(MM)、生産計画(PP)など、サプライチェーン全体を最適化するモジュールが揃っています。

例えば、SDモジュールの販売機能(SLS)は、顧客からの注文を効率的に処理し、在庫確認や出荷計画までの一元的な管理が可能です。また、MMモジュールの倉庫管理(WM)は、倉庫内での物品の移動を詳細に管理することで、スペースの有効活用と物流効率の向上を実現します。

生産計画(PP)の能力所要量計画(CRP)では、作業区や機械の能力を分析し、生産スケジュールを最適化します。

各モジュールの特徴を詳しく解説します。

SD:Sales and Distribution(販売管理)

「SD:Sales and Distribution」は、企業の販売と流通プロセスを管理するための販売管理モジュールです。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
BF:Basic Functions(基本機能) 販売と流通における価格設定や出力管理などのプロセスを含みます。
これにより、販売プロセスの効率化と標準化が可能です。
SLS:Sales(販売) 顧客からの注文受付から出荷までのプロセスを管理します。
販売注文管理、在庫確認、価格設定などが含まれます。
SHP:Shipping(出荷) 商品の出荷計画と配送を管理します。
倉庫から顧客への効率的な配送が可能となります。
BIL:Billing(請求) 顧客への請求書発行と支払い管理を行います。
売上データの記録と分析が可能となり、キャッシュフローの改善に寄与します。

また、販売管理モジュールは、後述する材料管理(MM)や生産計画(PP)といったサブモジュールとも密接に連携しています。

MM:Materials Management(在庫購買管理)

「MM:Materials Management」は、企業の資材管理を支援するために設計されたモジュールです。購買業務の効率化や、在庫管理の最適化に寄与します。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
PUR:Purchasing(購買管理) 企業の購買プロセス全体を管理します。
購買依頼の作成、見積もり依頼、入札管理、発注書の作成と管理などが含まれます。
ベンダーとの関係を最適化し、コスト効率の高い調達を可能とするツールです。
IM:Inventory Management(在庫管理) 在庫の受け入れ、保管、移動をリアルタイムで追跡し、在庫レベルを最適化します。
過剰在庫や品切れを防ぎ、効率的な在庫管理を実現可能です。
WM:Warehouse Management(倉庫管理) 倉庫内での物品の保管と移動を詳細に管理します。
倉庫スペースの最適化と物流プロセスの効率化が可能です。
IV:Invoice Verification(請求書照合) 受領した商品やサービスに対する請求書を照合し、正確な支払いが行われるようにすることで、不正確な請求や二重支払いを防ぎます。

PP:Production Planning(生産計画・管理)

「PP:Production Planning」は、生産計画と管理のためのモジュールです。製造プロセスを最適化し、効率的な生産を実現するために設計されています。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
MP:Master Planning(基準生産計画) 長期的な生産計画を立てるためのツールです。
需要予測、販売計画、在庫レベルを考慮した、長期的な生産計画の作成が可能です。
また、複数のシナリオをシミュレーションし、最適な計画を選択できます。
CRP:Capacity Requirements Planning(能力所要量計画) 生産計画に基づいて必要な生産能力を算出し、管理するためのツールです。
作業区・機械の能力評価や、生産オーダーのスケジューリング、作業負荷の可視化などを行います。
MRP:Material Requirements Planning(資材所要量計画) 生産計画に基づいて必要な資材の数量と時期を計算します。
部品表(BOM)、在庫レベル、リードタイムを考慮した所要量計画が可能です。
SOP:Sales and Operations Planning(販売・運用計画) 販売計画と生産計画を統合し、需要と供給のバランスを取るためのツールです。
販売、生産、在庫、財務の各部門の計画を統合し、需要変動に対する柔軟な対応を可能とします。
SFC:Shop Floor Control(製造現場管理) 製造現場での生産活動をリアルタイムで管理・監視するためのツールです。
作業指示の発行と確認や、生産オーダーの進捗管理、生産実績データの収集と記録などを行います。

QM:Quality Management(品質管理)

「QM:Quality Management」は、製品やサービスの品質を管理し、品質基準を維持するために設計されたモジュールです。前述した「MM(在庫購買管理)」「PP(生産計画・管理)」「SD(販売管理)」と密接に連携し、企業の品質管理向上に寄与します。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
PT:Quality Planning(品質計画) 製品の品質を確保するための基礎となるサブモジュールです。
検査計画の作成と管理、品質仕様の定義、検査特性の設定など、品質計画に関する業務をサポートします。
このモジュールで設定された計画は、ほかのQMサブモジュールの基礎データとなります。
IM:Quality Inspection(検査管理) 実際の品質検査プロセスを管理するサブモジュールです。
検査ロットの作成や、検査結果の記録・履歴管理、不適合品の識別と処理などを行います。
QC:Quality Control(品質管理) 品質の継続的な監視と改善を行うサブモジュールです。
品質レベルの定義と更新、統計的プロセス管理(SPC)の実施、特性値の監視などの機能があります。
CA:Quality Certificates(品質証明書) 製品が品質要件を満たしていることの証明書を作成します。
検査データをもとにした品質証明書の定義と作成、自動および手動での証明書発行が可能です。
QN:Quality Notifications(品質通知) 品質問題を記録し、追跡するためのサブモジュールです。
品質問題の記録と分類や、是正措置と予防措置(CAPA)の管理、関係者への通知と情報共有などを行います。

人事系モジュール

人事系の主要モジュールは以下のとおりです。

  • HR:Human Resources(人事管理)

人事系モジュール(HR)は、従業員情報の一元管理を通じて企業の組織運営を支援します。

例えば、勤怠管理(TM)では、勤務時間や休暇の記録を自動化し、労働法規制への準拠をサポートします。また、給与計算(PY)は、複雑な税金や控除を含む給与計算を正確かつ迅速に行うことが可能です。

人材開発(PD)モジュールでは、従業員のスキルやキャリアプランに基づき、教育や研修を計画して組織の競争力を高めます。

HR:Human Resources(人事管理)

「HR:Human Resources」は、組織の人事関連のプロセスを大幅に自動化し、データの一元管理を実現するサブモジュールです。社員情報の管理を行うため、会計系モジュールと並び、高い導入率を誇ります。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
PA:Personnel Administration(人事管理) 従業員の個人情報、雇用履歴、契約情報などの基本データを一元管理します。
従業員番号、氏名、住所などの基本情報に加え、組織単位、給与等級などの情報も保存します。
OM:Organizational Management(組織管理) 企業全体の組織構造と組織単位を体系的に管理します。
オブジェクト間の関係性を設定し、階層構造の可視化や、組織変更のシミュレーションや計画が可能です。
TM:Time Management(勤怠管理) 従業員の勤務時間を管理します。
勤務時間の記録・管理や、有給休暇・欠勤の追跡により、労働法規制への準拠をサポートします。
PY:Payroll(給与計算) 給与計算と関連処理を自動化します。
複雑な給与計算プロセスや、税金・各種控除の処理を行います。
PD:Personnel Development(人材開発) 従業員のキャリア開発と人材育成を支援します。
資格や個人のスキルに基づいたキャリアプランニングのサポートや、パフォーマンス評価を行います。

その他のモジュール

その他のモジュールは以下のとおりです。

  • PS:Project System(プロジェクト管理)

プロジェクト管理(PS)モジュールは、特に複雑で大規模なプロジェクトの進行を管理するために設計されています。プロジェクトの構造化やリソース計画、進捗追跡、予算管理などの機能を提供し、効率的なプロジェクト遂行を可能とします。

PS:Project System(プロジェクト管理)

「PS:Project System」は、プロジェクトのライフサイクル全体を管理するための包括的なツールです。

大規模で複雑なプロジェクトを効率的に管理するための強力なツールであり、建設、製造、サービス、投資プロジェクトなど、さまざまな業界で活用されます。

主な機能として、以下のサブモジュールが含まれます。

サブモジュール 概要
OS:Project Structure(プロジェクト構造) プロジェクトの骨格を形成するサブモジュールです。
WBS(Work Breakdown Structure)でプロジェクトを階層的に構造化して全体像を可視化し、各作業を明確に定義します。
PLN:Project Planning(プロジェクト計画) プロジェクトの詳細な計画を立案するサブモジュールです。
スケジューリングやリソース・コスト計画、マイルストーン管理などが可能です。
BUD:Budgeting(予算管理) プロジェクトの財務面を管理するサブモジュールです。
プロジェクト全体の予算割り当てや予算の配分、実際のコストと予算の比較などを行います。
IS:Information System(情報システム) プロジェクト管理に必要な情報を提供するサブモジュールです。
レポート生成やダッシュボードなどを用いたプロジェクト状況の可視化や、多角的なプロジェクトデータの分析が可能です。

まとめ

SAPのERPモジュールは、企業全体の業務を効率化し、データの一元管理を実現するツールです。主に「会計系」「ロジスティクス系」「人事系」「その他」の4つに分かれており、それぞれ役割が異なります。各モジュールの特徴を理解し、効果的に活用することで、企業全体の業務効率と透明性が向上するでしょう。

この記事を書いた人
クラウドERP導入ガイド編集部
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