有形商材を取り扱う事業者にとって、在庫管理の最適化は重要な経営課題のひとつです。とくに不動在庫は資本効率の低下や税金面の負担を招く要因となるため、キャッシュフローの健全性を確保するためには適切な在庫管理が欠かせません。本記事では不動在庫が発生する原因やデメリットについて解説します。不動在庫を処分する方法や削減する方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
不動在庫とは?
不動在庫とは、長期間にわたって出荷・販売されず、工場や倉庫で保管され続けている在庫を指します。不動在庫が発生すると保管コストを負担し続けることになり、さらに長期保管によって商品の劣化や陳腐化を招く可能性がある点がデメリットです。原則として在庫は棚卸資産に計上されるため、税負担の増加やキャッシュフローの悪化を招きます。このような特性を有することから、不動在庫は「Dead Stock(死んでいる在庫)」とも呼ばれます。
不動在庫の類義語として挙げられるのが「不稼働在庫」と「不良在庫」です。不稼働在庫は不動在庫とほぼ同義の用語として用いられます。不良在庫も不動在庫と同様の意味合いで使用される用語ですが、品質上の問題によって販売の見込みが立たないというニュアンスも含まれます。
不動在庫と滞留在庫の違い
不動在庫と滞留在庫の違いは、出荷や販売が見込めるか否かという点にあります。不動在庫は、長期間にわたって工場や倉庫に残っており、なおかつ出荷・販売できる可能性が極めて低い在庫です。一方、滞留在庫は一時的に動きがないものの、出荷の見込みや販売できる可能性があるものを含みます。
不動在庫が発生する代表的な理由
不動在庫の発生要因は多岐にわたり、複数の要素が絡み合うことで生じるケースが一般的です。代表的な要因として以下の3つが挙げられます。
・仕入れ過多
不動在庫が発生する理由のひとつは、過剰な発注による仕入れ過多です。たとえば大量一括仕入れは、一回あたりの運送・物流コストを削減できるというスケールメリットを得られるものの、仕入れ過多によって不動在庫を抱えるリスクが懸念されます。
・需要と供給の不一致
顧客や消費者の需要に対する供給が過剰に傾くと不動在庫の要因となります。例としては、実際の販売動向が需要予測を大きく下回り、市場のニーズに合わない商品が売れ残るといったケースです。
・使用期限や賞味期限の問題
使用期限や賞味期限のある商品は品質の低下や法的な規制要件により、一定の期限が過ぎると市場価値を喪失します。医薬品や食品などは期限が近づくにつれて販売が難しくなる傾向にあり、在庫として残りやすくなります。
不動在庫を抱えるデメリット
不動在庫を抱える主なデメリットは、「キャッシュフローの悪化を招く」と「機会損失につながる」の2点です。
キャッシュフローの悪化を招く
不動在庫を抱えている場合、その在庫の仕入れ原価に相当する資金が倉庫内に凍結されている状態を意味します。仕入れの支出が発生しているにもかかわらず、売上としての回収は後回しとなるため、他の事業活動に回せる運転資金の減少を招く点がデメリットです。
また、先述したように、原則として在庫は棚卸資産に計上されます。たとえば1万円の商品を仕入れた場合、その支出は流動資産の一部として貸借対照表の借方に記載され、販売または廃棄するまで、その仕入れ原価を経費に計上できません。そのため、税金の支払負担が増加する可能性があります。
長期保管による管理コストの増大もデメリットのひとつです。とくに温度や湿度の管理が必要な商品の場合、定期的な状態確認や冷蔵設備の保全業務などに相応の管理コストが発生するため、長期間にわたって潜在的な損失が発生します。
機会損失につながる
不動在庫は単に物理的な在庫として倉庫で管理されているだけではありません。運転資金や倉庫の保管スペース、管理業務に要する人的資源などのリソースを拘束し、新事業への投資や戦略の実行を妨げる要因となります。
たとえば倉庫内の一部が不動在庫に占領されている場合、別の部材や原材料などを保管する物理的なスペースが減少します。それにより、新商品や売れ筋商品の補充に制約が生じ、間接的な機会損失につながる点がデメリットです。
また、不動在庫を抱え続けた場合、技術革新による製品の陳腐化や、使用期限切れによる品質劣化などのリスクが高まります。すると出荷や販売が見込めなくなり、販売機会を失うとともに廃棄費用が発生する可能性があります。
不動在庫を処分する方法
不動在庫は運転資金の圧迫や機会損失を招く要因となるため、一定期間を超過した場合は処分を検討しなくてはなりません。状況に応じて適切な処分の仕方は異なりますが、代表的な方法は以下の3つです。
値引き販売をする
在庫を保管し続けると管理コストや税負担の増大を招きます。そこで在庫をセール品やアウトレット品として提供することで「割安感」が醸成され、購入につながる可能性が高まります。
それにより、製造や仕入れにかかった費用の一部を回収できるだけでなく、売上の計上時に仕入れ原価を経費化できる点がメリットです。ただし、在庫一掃セールのような「安売り」は、企業のブランドイメージを損なう可能性に留意しなくてはなりません。
買取業者を利用する
買取業者の利用もひとつの方法です。不動在庫は倉庫の保管スペースを圧迫しながら、仕入れ原価に相当する資金を凍結させている状態なので、早期の現金化が求められます。
買取業者を利用すると、セール価格を下回る取引金額になる可能性が高いものの、比較的容易に現金化できる点がメリットです。ただし自社の商品がオークションサイトのような低価格帯の市場に流通し、希少性やステータスを損なうリスクが懸念されます。
廃棄処分する
廃棄処分は仕入れやそれまでの管理にかかったすべてのコストが損失となるため、可能な限り回避したい手段です。しかし安全基準を満たさなくなった商品や陳腐化した製品など、出荷・販売の見込みが立たない在庫を放置した場合、機会損失や税負担の増大といった間接的な損失が発生し続けます。
そのため、値引き販売や買取業者との取引でも処分できなかった場合、不動在庫の廃棄を検討しなくてはなりません。なお、廃棄処分する際は法令で定められた安全基準や環境保護に関する規制の順守が求められます。たとえば産業廃棄物を処分する場合は、各自治体の許可を持っている業者への委託が必要です。
不動在庫を削減する方法
不動在庫の発生を抑えるためには、管理体制の見直しや予防策の導入が求められます。不動在庫を最小化するためには、以下に挙げるポイントを意識することが大切です。
適正在庫を設定する
適正在庫とは、需要と供給のバランスが保たれた過不足のない在庫状態を指します。適正在庫を維持するためには、過去の販売データや季節要因による需要変動などを分析するとともに、在庫数をリアルタイムで把握する管理体制が必要です。
適正在庫の算出方法としては、一定期間の平均的な需要数と最低限確保するべき安全在庫数を用いて計算するのが一般的です。たとえば、ある商品の1週間の平均需要数が100個で安全在庫が50個の場合、以下のような計算となります。
100(一定期間の需要数)+50(安全在庫数)=150(適正在庫)
需要予測を改善する
不動在庫の発生を抑えるためには、需要予測の精度向上が不可欠です。しかし過去の販売データや市場調査のデータに重複や表記ゆれがあったり、欠損値や異常値などが含まれていたりすると分析の精度が低下します。そのため、需要予測の精度を担保するためには、データの整合性を確保しなくてはなりません。
とくに基幹系システムを各部門で個別管理している場合、各システムでデータの粒度やファイル形式が異なり、重複データの削除や欠損値の補完、エラーの修正に多大な工数を要します。そのため、需要予測の効率化と精度向上を実現するためには、組織内のデータを一元管理する仕組みが必要です。
自社に合った在庫管理システムを導入する
在庫管理の最適化を図るには、自社の業務形態や既存のITインフラに適した在庫管理システムの導入が欠かせません。在庫管理システムを導入することで、リアルタイムでの在庫状況を俯瞰的に把握できるため、在庫過多による財務状況の悪化や過少在庫による販売機会の損失を最小限に抑えられます。飲食事業者であれば各店舗の在庫状況を一元管理できるため、食材の仕入れを調整して食品ロスや賞味期限切れを最小化できる可能性が高まります。
SAP導入で不動在庫問題を解決した事例
在庫管理や需要予測の精度向上を目指す場合、ERP(Enterprise Resources Planning)の戦略的活用が推奨されます。ERPは、財務会計・人事・購買・生産・在庫管理・販売などの基幹業務を一元管理し、部門横断的な情報共有や経営状況の可視化を実現するシステムです。
季節的な需要変動の大きい商品を取り扱うA社は、不動在庫の削減とPSI(生産・販売・在庫)の可視化に向けて、SAP社が提供するERPパッケージの「SAP ERP」を導入しました。それにより、不動在庫の削減に成功するとともに、2010年時点で300億円弱だった売上高が、2023年には570億円にまで拡大しています。
SCMで不動在庫問題を解決
SCM(Supply Chain Management)は、原材料や部材の調達から製品の販売に至る一連のプロセスを統合的に管理する手法です。「調達」→「生産」→「在庫管理」→「物流」→「販売」というサプライチェーン全体の流れを管理し、需要予測や在庫管理、配送プロセスなどの最適化を図ります。SCMによって適切な在庫管理を行うと、ビジネスの機会を最大化できます。
SCMを推進するためにはサプライチェーン全体の流れを可視化するプロセスが必須であり、そのために欠かせないのが拠点や組織ごとに分断された基幹業務を一元管理するERPです。SCMの推進と不動在庫問題の解決を目指す方は、ERP市場でトップシェアを誇るSAP社の製品を導入してみてはいかがでしょうか。
まとめ
不動在庫は一定の期間を超えて出荷・販売されず、工場や倉庫で保管され続けている在庫を指します。不動在庫が発生する主な理由は、仕入れ過多や需要と供給の不一致、使用期限や賞味期限の問題などです。不動在庫を抱え続けると保管スペースを圧迫し、税負担の増大や販売機会の損失が生じます。
このようなデメリットがあるため、不動在庫を抱えている場合は早期に現金化することが求められます。不動在庫を最小限に抑えるためには適正在庫の設定や需要予測の高精度化といった取り組みが欠かせません。そのためには在庫管理システムやERPの戦略的活用が不可欠です。