グローバルサプライチェーンとは?効率化とリスク管理を両立させる5つの手法

 クラウドERP導入ガイド編集部

グローバルサプライチェーンは、世界的な規模で原材料の調達から製品流通などのサプライチェーンを展開する手法です。効率化とリスク管理を適切に行うことで、企業に多くのメリットをもたらします。とはいえ、自社でどう活用すべきか迷っている方もいるでしょう。本記事ではグローバルサプライチェーンの効率化とリスク管理を中心に、なぜ、構築が必要なのか、またメリットや課題点、解決策、構築に必要なERPについて詳しく解説します。

グローバルサプライチェーンの概要

グローバルサプライチェーンは企業にさまざまなメリットをもたらす近年話題の仕組みです。グローバルサプライチェーンについて詳しく解説していきます。

サプライチェーンの意味

サプライチェーンとは、製品がエンドユーザーのもとへ届くまでの、原材料の仕入れから製造、流通、販売に至る一連の流れを指します。例えば、私たちが普段手にする電化製品なども、さまざまな地域で生産された部品が集められ、組み立てられています。この部品の調達から、最終製品がエンドユーザーの手に渡るまでのプロセス全体がサプライチェーンです。また、このプロセスを効率的に管理し、コストを抑えつつ、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めるための経営管理手法をサプライチェーンマネジメントと言います。

グローバルサプライチェーンとは?

グローバルサプライチェーンとは、そのプロセスを世界的な規模で行なうものです。日本の企業は高度経済成長期から海外進出を加速させ、1980年代には人件費削減のためアジアへの進出が盛んになりました。低コストで製品を提供できるようになりましたが、近年では、アジアのみならず、さらに高度なグローバルサプライチェーンが求められています。これは、市場の多様化、消費者のニーズの変化など、さまざまな要因が絡み合っているためです。

グローバルサプライチェーンの構築が必要な理由

グローバルサプライチェーンの構築が求められるのには、次のような理由があります。

原材料高騰の影響

近年の原材料の高騰や供給不安定化は世界的な問題です。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンや国際的な対立など、予期せぬ事態が原材料の供給を滞らせ、企業の生産活動に大きな影響を与えています。

このような状況下において、企業は原材料の調達先の多角化が求められており、グローバルサプライチェーンはこれらの課題に対する有効な解決策となります。国内だけでなく世界中で原材料の仕入れから製品の販売まで、一連のプロセスをグローバルな視点で管理することで、リスクを分散し安定的な供給を確保できます。

しかし、一方で、国内とは異なる課題も存在します。例えば、輸送距離が長くなり、物流コストが増加したり、輸送中のトラブルが発生するなどリスクが高まったりすることです。これらの課題を克服するためには、情報システムを活用した可視化が不可欠です。

自然災害・パンデミックへの対策

東日本大震災や新型コロナウイルス感染症といった自然災害やパンデミックは、原材料調達の困難や生産設備の停止など、サプライチェーンに深刻な影響を与えました。

社会全体に波及する経済的な損失も大きく、特に工業製品や医療機器のサプライチェーンは、その影響は甚大です。このような機能不全は、社会生活に不可欠な、製品の供給が滞るリスクを抱えています。リスクを未然に防ぎ、万が一発生した場合には迅速に復旧するための機能の強靭化が喫緊の課題です。

そのためには、サプライヤーの多角化、生産拠点の分散、情報システムの強化などを通じて、リスクを分散し、柔軟性を高める必要があります。パンデミックや自然災害といった不測の事態に備えるための有効な手段のひとつが、サプライチェーンのグローバル化です。

グローバルサプライチェーンの効率化・リスク管理を両立させる5つの手法

上記のように不確実性が高まる世界情勢において、グローバルサプライチェーンは有効な手段となり得ます。ただ、効率化やリスク管理を念頭に導入をしなければ、大きな効果は得られません。ここからは、効率化・リスク管理を両立させる5つの手法を紹介していきます。

需要の予測

企業がグローバルサプライチェーンの効率化と最適化を実現するための基盤となる重要な要素として、需要速が挙げられます。

過去の販売データだけでなく、外部要因や市場トレンドなど、多様なデータを活用した高度な予測モデルを構築すれば、より精度の高い需要予測が可能です。これにより、企業は生産計画や在庫管理を最適化し、需要の変動に迅速に対応できるようになります。

特に、eコマースのように頻繁に需要が変化するビジネスでは、需要予測の精度が企業の競争力に直結します。高度な需要予測システムを導入することで、企業は在庫過多や品切れといった問題を回避し、顧客満足度向上と収益増に貢献します。

リアルタイムでの在庫管理

在庫管理は、企業にとって重要な課題です。リアルタイムデータの活用により、在庫状況を可視化し、需要予測の精度を高めることで、過剰在庫や品切れといった問題を回避できるようになりました。しかし、昨今の経済状況の変動性により、在庫管理はますます複雑化しています。

特に、安全在庫の管理は企業にとって大きな課題です。安全在庫は、不測の事態に備えるための予備的な在庫ですが、過剰な安全在庫は、資金の凍結や保管コストの増加につながります。一方で、安全在庫が不足すると、品切れによる機会損失が発生するリスクがあります。

そのため、企業は、過去のデータ分析に基づいて最適な安全在庫レベルを設定しなければなりません。また、経済状況や市場トレンドの変化に迅速に対応するため、安全在庫の計算を定期的に見直すことも重要です。

倉庫設置の最適化

倉庫の配置を戦略的に見直すことも、グローバルサプライチェーンの効率化に役立ちます。ひとつの倉庫に依存した従来型のモデルは、災害やトラブル発生時にサプライチェーン全体が麻痺するリスクを抱えています。二次倉庫の設置や倉庫保管のアウトソーシングは、リスク分散だけでなく、プロセスの俊敏化や配送コストの削減にもつながります。

また、ECに特化した小規模倉庫である「マイクロフルフィルメントセンター」の活用は、都市部での迅速な配送以外にも、店舗受取といった消費者のニーズに対応し、柔軟性を高める上で有効な手段です。

ラストワンマイル配送の迅速化

ラストワンマイルとは、サプライチェーンの最終拠点から消費者に届くまでの最終区間を指しますが、配送のスピードアップには、テクノロジーの活用が不可欠です。それは、効率的な配送ルートの策定だけでなく、ラストマイル配送の可視性向上により、道路状況の変化などへの迅速な対応も可能とします。

さらに、顧客へのリアルタイムな配送状況の提供は、顧客満足度を高め、リピート率向上につながります。こうしたニーズに応え、より迅速かつ効率的な配送を実現するためには、ソフトウェアなど支援ツールを導入する検討も必要です。

サプライヤーとの関係構築

サプライヤーとの良好な関係は、信頼の積み重ねによって築かれます。契約上の義務だけでなく、誠実なコミュニケーションや約束の履行が重要です。このような関係は、品質、納期、コストの改善につながり、サプライチェーン全体の安定化に貢献します。

ただし、ひとつのサプライヤーに依存するのはリスクが高いため、複数のサプライヤーとの関係構築も重要です。サプライヤーはサプライチェーンの重要なパートナーです。相互理解と協力が不可欠である一方、企業はサプライヤーを管理することも必要となり、定期的な監査なども実施して常に改善を促していくことも必要となります。

グローバルサプライチェーンを導入するメリット

企業がグローバルサプライチェーンの導入によって得られる、具体的なメリットを解説します。

供給が安定しやすい

まず、第一のメリットとしては、顧客への納期短縮や、国際情勢の変化などによるリスク分散を実現し、安定的な製品供給が可能になることです。
具体的には、製品の需要特性を分析して、最適な生産・配送体制を構築することで、顧客への納品リードタイムを短縮し、供給の迅速化・安定化に貢献します。

また、複数の地域に生産拠点を分散させることで、特定地域での災害や政治不安などのリスクを回避し、サプライチェーン全体の安定性を高めることができます。

コスト削減につながる

第二のメリットとしては、生産ラインの管理体制と拠点間の連携を強化し、リアルタイムな情報共有に基づいた流通網を実現することです。不良在庫や廃棄の発生を抑制できるため、コスト削減につながります。また、海外展開では人件費や原材料費の削減が主な目的でしたが、グローバルサプライチェーンの構築により、在庫の最適管理による間接コストの削減も可能にします。

さらに、在庫の適正化は、収益だけでなくキャッシュフローの改善にもつながり、欠品による販売機会の損失や過剰生産によるコスト増を抑制することでもコスト削減を実現します。

顧客のニーズに対応しやすい

第三のメリットは、最適な製品供給体制と仕組みの構築化で、顧客への提案力を高め、新たな市場開拓を可能にすることです。現地調達や現地生産といった現地化を実現すれば、対象地域における販売機会の拡大とコスト削減効果が期待でき、収益力向上につながります。また、グローバルな調達体制の確立により、顧客ニーズに合致した高品質で低コストの部品や原材料を世界中から調達することが可能となり、市場での優位性を確立できます。

グローバルサプライチェーンにおける課題点

グローバルサプライチェーンには、上記のようなメリットがある一方で、課題点もあります。具体的にどのようなものがあるのか解説していきます。

為替変動や地政学リスクがある

まず、最初に挙げられるのは複数拠点での取引に伴う為替変動リスクや地政学的なリスクです。新興国通貨は流動性が低く、為替変動リスクが高い傾向にあります。また、新興国は原材料や人件費が安価ですが、政治情勢の不安定化による通貨暴落や治安悪化のリスクも懸念されます。

サプライチェーン攻撃を受ける可能性がある

システムやソフトウェアに関しても課題点は存在します。そのひとつが、サプライチェーン攻撃です。これは、企業間の取引関係やビジネスパートナーシップといった業務上の連携を悪用して、セキュリティ対策が比較的脆弱な関連企業を踏み台にして標的となる企業に侵入するサイバー攻撃手法です。この攻撃の特徴は、直接的な侵入が難しいセキュリティレベルの高い企業であっても、信頼関係に基づく取引先や子会社などから間接的に侵入できる点にあります。

国内外で管理体制・マニュアルを統一させる必要がある

サプライチェーンでは、部門間や取引先間の情報を統合管理し、生産計画の最適化や在庫管理の効率化を実現する必要があります。

特に、グローバルサプライチェーンは、海外拠点を有する企業も多く、物理的な距離や文化・法規制の違いによる情報共有の難しさや独自の管理体制の必要性から、管理体制・マニュアルの統一が必要です。これにより、海外拠点を含むサプライチェーン全体を可視化し、グローバルな視点での最適化が可能になります。

しかし、この作業はそれぞれの視点で制作する必要があり、国内だけの場合と比較して困難が予想されます。そのため、ERP(統合基幹業務システム)などの導入は不可欠でしょう。

グローバルサプライチェーンの課題解決に向けた取り組み

ここからは、グローバルサプライチェーンの課題点を踏まえて解決に向けた取組方法を解説していきます。

サプライチェーン環境の改善・再構築を行う

まず、既存のサプライチェーンについて再点検を実施して、改善や、ときには再構築を視野に入れた取り組みが必要です。具体的には、サプライヤーとの連携を強化し、サプライチェーン全体で情報を共有することで、迅速な意思決定と柔軟な対応を可能にすることです。

近年では、グローバル化の推進により、ビジネスモデルは多様化し、サプライチェーンはますます複雑化しています。その結果、自然災害やサプライチェーン攻撃など、さまざまなリスクに脅かされています。

課題解決には、前述の連携強化と情報共有を軸にして、リスク管理の強化、事業スキームのシンプル化などが必要です。これらの取り組みを通じて、企業はサプライチェーンの安定化と効率化を図り、持続的な成長を実現できます。

環境変化も視野に入れたシナリオを策定する

近年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行など、予期せぬ事態への対応は、企業の存続を左右する重要な課題となっています。それに対応するには、安定したビジネス環境を前提としたシナリオではなく、不確実な環境でのさまざまなリスクを想定したシナリオを策定し、緊急事態発生時の対応計画を事前に準備することです。

異常気象、災害、パンデミックといったさまざまなリスク要因を分析し、それぞれのシナリオにおいて、サプライチェーンのどの部分が最も脆弱になるのかを特定し、必要な対策を講じる必要があります。具体的には、代替サプライヤーの確保、在庫の分散配置、従業員のテレワーク対応などが考えられます。

脆弱性の特定やリスク管理を行う

脆弱性の特定やリスク管理は、サプライチェーンのリスクを特定し、評価することで潜在的な危機を防ぎ、事業の継続性を確保するために重要です。

脆弱性やリスクを放置すれば、顧客価値の創出や市場での競争優位性を阻害するだけでなく、事業の中断や評判の低下といった深刻な影響をもたらす可能性があります。そのため、サプライヤーだけでなく、その先の協力会社も含めたサプライチェーン全体を可視化して、多角的な視点から脆弱性を分析することが求められます。それぞれの要素におけるリスクを洗い出し、重点的に対策すべき領域を明確にして対処してください。

グローバルサプライチェーンの構築に必要な「ERP」とは

複雑化しているグローバルサプライチェーンの構築には、目的に合ったシステムの導入が欠かせません。そのなかでもERPはさまざまな状況でグローバルサプライチェーンの構築に好影響を与えると考えられます。

ERPとは

ERPとは、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)のことで、「統合基幹業務システム」とも呼ばれます。企業の会計、人事、生産、物流、販売など、さまざまな業務を統合し、効率化と情報の一元化を実現するためのシステムで、それらの複数システムを統合して提供されます。

ERPがもたらすグローバルサプライチェーンへの影響

ERPは経営の最適化を目指すシステムです。そのため、グローバルサプライチェーンの構築にも多くの好影響を与えることが考えられます。

グローバルに情報を共有できる

ERPは、企業の会計、人事、生産、物流など、さまざまな業務で共通して利用されるデータベースを基盤とするシステムです。このデータベースに、企業全体の情報を集約することで、情報の一元化を実現し、部門間の連携を強化できます。従来は、各部門が個別のシステムで情報を管理していたため、部門間での情報共有や連携に手間がかかっていましたが、ERPの導入により、これらの課題の解消が可能です。

つまり、海外拠点のデータもERPに集約することで、グローバルな視点での経営管理を実現し、物理的な距離を超えた情報共有を可能になります。これにより、サプライチェーン全体の最適化や、経営戦略の策定にも貢献します。

リアルタイムの情報を活用できる

ERPは入力されたデータがリアルタイムに反映されることにより、海外などの離れた拠点でのトラブル発生時にも迅速な対応を可能にし、機会損失を減らせます。
また、蓄積されたリアルタイムな情報は、未来予測や経営判断の根拠となるデータとして活用でき、より精度の高い意思決定を支援します。

すべての部門で業務効率化・生産性の向上が期待できる

ERPは、従来の部門ごとのシステムを統合し、企業全体の業務を効率化するためのシステムです。会計、人事、生産、販売など、あらゆる業務をひとつのプラットフォームで管理することで、情報の一元化、業務の標準化を実現し、コスト削減と生産性向上に貢献します。さらに、これまで各部門で分散していたデータを一元管理することで、部門間の情報共有を促進し、データの横断的な分析を可能にします。ERPにはパッケージ型やコンポーネント型など、さまざまなタイプがあり、企業の規模や業務内容に合わせて最適なものを選ぶことが重要です。

ERPシステムを導入するならSAPがおすすめ

グローバルサプライチェーンでは、各拠点の情報をリアルタイムに反映でき、一元管理が可能なERPシステムが理想的と言えます。そこで、おすすめするのが、「SAP」です。ドイツのSAP社が開発した世界的に有名なERPシステムであり、企業のさまざまな業務を統合し、効率化するためのソフトウェアです。

販売管理、製造管理、会計管理など、企業の基幹となる業務をひとつのシステムで管理することで、情報の一元化を実現し、グローバルな会計基準や法規制にも対応可能です。また、SAPは、さまざまなシステムとの連携性が高く、企業のデータをリアルタイムに統合・分析することで、業務の効率化と経営判断の精度向上に貢献します。

まとめ

グローバルサプライチェーンの構築は企業に多くのメリットをもたらします。一方でいくつかの課題点が存在することも確かです。しかし、課題を放置するのではなく、先進的な技術を取り入れながら解決していけば、より強固なグローバルサプライチェーンの構築も可能です。

その先進的な技術として考えられるのが、ERPシステムです。このソリューションを活用することで、グローバルサプライチェーンの構築はもちろん、企業全体への多くのメリットが期待できます。

この記事を書いた人
クラウドERP導入ガイド編集部
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