グローバル経営は、海外進出の際に進出先の地域の文化・価値観・法律などを考慮した経営を行う手法です。国内市場の縮小や市場競争の激化を背景に、グローバル経営への注目が高まっています。本記事では、グローバル経営の概要や、注目を集めている背景、取り入れるメリットを解説し、グローバル経営に強いSAPの特長や導入事例を紹介します。自社のグローバル展開を検討している方はぜひ参考にしてください。
グローバル経営とは?
グローバル経営とは、海外進出において、進出先の地域の特性を考慮した経営を行う手法です。日本の企業でもグローバル展開が進んでいますが、海外にはその地域独自の文化・価値観・法律があります。そのため、「日本で売れている製品が海外では売れない」「日本で成功した事業が海外では思うようにいかない」といったケースが多々見られます。グローバル経営ではこのような海外の市場特性に合わせ、柔軟な経営を行う必要があります。
グローバル経営が進む背景
グローバル経営が進む主な要因には、「日本国内市場の縮小」「市場競争の激化」「情報のボーダレス化」が挙げられます。
日本国内市場の縮小
ひとつは日本の国内市場が縮小しているためです。人口減少や少子高齢化、インフレによる買い控えなどにより、国内市場は縮小傾向にあります。そこで多くの企業が、国内市場に比べて成長の余地がある海外に活路を見出そうとしているのです。また、新しい収益源を確保するだけでなく、人材確保(製造・生産)の観点でも、人的コストの安い国に進出することは大きな意味を持っています。
市場競争の激化
国際的な市場競争の激化もグローバル経営が進む要因のひとつです。海外から安価な製品が日本国内市場に流入すると、安価な製品に顧客が流れ、日本の製品の需要が下がってしまいます。競争を勝ち抜くために、日本の企業は高品質をウリに世界市場へ打って出る必要が出てきています。国際競争の中で製品の差別化を図り、競争力の強化とブランド価値の向上を目指す戦略は、多くの日本の企業に見られる動きです。
情報のボーダレス化
グローバル経営が進む背景には、情報のボーダレス化もあります。インターネットの普及によって情報のボーダレス化、つまり国境を越えて情報をやり取りしやすい環境に変化しました。消費者は海外の魅力的な商品情報を手軽に入手できるようになったため、日本の企業としてもグローバル展開をせざるを得ない状況になっています。また、情報のボーダレス化により、企業の活動自体もボーダレスに行えるようになりました。
グローバル経営のメリット
グローバル経営のメリットとしては市場・販路の拡大など数多くのメリットがあります。ここでは、グローバル経営を行うことで得られる主なメリットを紹介します。
市場・販路の拡大
人口減少や少子高齢化によって、国内市場は縮小傾向にあります。今後の大幅な成長を見込みづらい日本市場に対し、新興国の中間層では高い需要を見込めます。需要を見込める地域に打って出ることで、市場・販路の拡大につながると同時に、売上を伸ばしやすいのがグローバル経営のメリットです。特に注目を集めているのは、東南アジア市場やアフリカ市場です。
人件費など製造コストの削減
新興国は日本に比べ、人件費や原材料費が安い傾向にあります。海外工場で生産することで製造コストを抑え、結果的に利益の増加につながるのがメリットです。また、外国企業を積極的に誘致している国では、税制上の優遇措置を受けられる「経済特区」を設けているケースがあります。中国やベトナム、マレーシア、フィリピンなどが代表的です。
異文化との接触によるシナジー効果
進出先の異文化に触れることで、日本国内とは異なる発想が生まれ、新しいプロダクト開発のきっかけになる可能性があります。これはいわゆる「シナジー効果」と呼ばれる相乗効果です。シナジー効果には主に「事業シナジー」「財務シナジー」「組織シナジー」の3種類があり、グローバル経営には特に事業シナジーの影響が大きいと考えられています。
グローバル経営におけるシナジー効果の代表例に挙げられるのが、韓国の電機メーカー・サムスン電子の「鍵付き冷蔵庫」です。家事代行を雇う家庭が多いインド向けに、盗難を防止できる鍵付き冷蔵庫を販売してヒットにつなげました。サムスン電子の販売戦略のように、地域に合わせた製品作りを行うことで、その地域でのブランド構築が可能です。
ブランドイメージ・企業価値の向上
進出先の国で自社製品をアピールすることで、国内市場のみで販売するとき以上に知名度がアップします。ブランドイメージが「日本の〇〇」から「世界の●●」に変化し、企業の価値を向上させることが可能です。グローバル展開によって海外事業が軌道に乗っていけば、同業他社との差別化にもつながります。世界に通じるようなグローバルブランドは短期間で構築できるものではありませんが、ブランドイメージを確立できれば企業独自の強みを得ることが可能です。
グローバル経営戦略における4つのマネジメント手法
ひとまとめにグローバル企業といっても、幅広い地域に本社を置く多国籍企業があれば、現地法人が独自に事業展開している企業もあります。同じグローバル企業でもさまざまな形態があるため、グローバル経営を行うにはそれぞれの違いを理解しておくことが重要です。グローバル企業の組織形態とマネジメント手法は、「バートレットとゴシャールの4類型」によって分類されています。
1.グローバル手法
特徴
・本国に置かれた本社に権限や経営資源を集中させる
・進出先のすべての国で共通の製品やサービスを提供
・効率面やコスト面で優位性がある
グローバル手法(=グローバルスタンダード戦略)は、進出先のすべての国で共通の製品やサービスを提供する手法です。本国に置かれた本社に権限や経営資源を集中させるため、中央集権の傾向が強い組織に向いています。
ただし、現地での適応力やイノベーションの創出の面では課題があります。日本企業が失敗しがちな経営手法でもあり、代表的な例として「ガラパゴス携帯」が挙げられます。“ガラケー”ことガラパゴス携帯は、高機能かつ高価格な製品が多かったうえ、周波数帯が海外とは異なるために、グローバル展開がうまくいきませんでした。
2.マルチナショナル手法
特徴
・現地法人が独自の戦略や資源で事業を運営する
・進出先の文化や嗜好に合わせた製品やサービスを提供
・適応力やイノベーションの創出の面で優れる
マルチナショナル手法(=ローカライゼーション戦略)は、進出先の国の文化や嗜好に合わせた製品・サービスを提供する手法です。国や地域によって嗜好が大きく異なる「食品」に関わる企業で、採用されやすい傾向にあります。
現地での適応力には非常に優れている一方で、グループ企業同士の横断的な取り組みや、知識の共有は難しい傾向にあります。中央集権的な組織では管理が難しく、世界的なブランドイメージの統一も困難です。
3.インターナショナル手法
特徴
・現地法人に一定の権限を与える
・最低限のローカライズをした製品やサービスを提供
・効率性と適応力のバランスに優れる
インターナショナル手法は、グローバル手法とマルチナショナル手法の特徴を組み合わせた手法です。意思決定権は本国の本社にありますが、現地法人にも一定の権限を与え、各国の拠点で集めた情報とニーズを反映させた戦略で事業を展開していきます。
グローバル手法に比べると現地での適応力に優れ、マルチナショナル手法に比べると効率面で優位性があるのがインターナショナル手法の特徴です。2つの中間的な手法として、競合企業があまり存在しない市場で自社のブランドを確立させたいときに採用されやすい傾向にあります。
4.トランスナショナル手法
特徴
・効率性、適応力、グループ企業同士の横断的なつながりをすべて追求する
・現地法人の経営力を高めながら本社との連携も強める
・組織のマネジメントが非常に難しい
トランスナショナル手法は、バートレットとゴシャールの4類型において、最も理想的な手法とされています。各国の現地法人や本国の本社との連携を強め、効率性・適応力・グループ企業同士の横断的なつながりをすべて追求していきます。
どのような課題にもバランスよく対応しやすい手法ですが、他の3つの手法に比べ、組織のマネジメントが非常に難しい点がデメリットです。
グローバル経営の課題
市場・販路の拡大や製造コストの削減につながるグローバル経営ですが、その裏には少なからず課題も存在します。進出先の国が抱える政治的な問題や、言語・文化の違いによるトラブルなどのリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
カントリーリスク
進出先の国が抱える政治・経済・社会的なリスクを総称して「カントリーリスク」と呼びます。共産主義のもとでは経済活動に多くの制約があることから、進出には不安要素が大きいと考えられている「チャイナリスク」が代表的な例です。その他、インフレによる通貨や株価の急落、国債の債務不履行などもカントリーリスクに含まれます。
カントリーリスクは日本を含め、どの国にも存在しますが、東南アジアやアフリカのような新興国では特に高い傾向にあります。先進国に比べ、政治情勢や経済が不安定なためです。急激な変化によって大きな損失を出すリスクが伴うため、グローバル経営を行う際は進出先の国が置かれた状況を十分に理解することが重要になります。
経営管理の複雑化
拠点が増えることで、経営管理が複雑になるデメリットもあります。特に、中央集権の傾向が強いグローバル手法や、グループ企業同士の横断的なつながりを重視するトランスナショナル手法で考慮しなければならない課題です。変化の激しいビジネスでは円滑なコミュニケーションが欠かせませんが、現地法人で情報収集した後に本社に報告するやり方では、どうしても管理が複雑になってしまいます。
情報の収集から共有まで効率的に進めるには、現地法人と本国の本社ですばやく情報を共有する仕組みが不可欠です。例えば、情報を一元管理できるERPを導入するなど、経営が複雑になるグローバル経営ならではの課題を解決する工夫が必要になります。
言語・文化的な差異
言語・文化の違いも、グローバル経営を行ううえで無視できない課題です。異文化コミュニケーションで起こりがちなトラブルに、時間や期限の考え方の違いがあります。例えば日本に比べて時間にルーズな国の場合、アポイントメントを取ったにもかかわらず、時間通りに担当者が現れないケースが見られます。こうした国では、予定を再確認するフォロー連絡を入れるなど、地域性を考慮した柔軟な対応が必要です。
また、グローバル人材をどのようにして確保するかも大きな課題です。グローバル経営では現地でのコミュニケーションに英語を用いるのが一般的ですが、より密接な関係を構築するには現地の言語を理解できる人材が必要になります。さらに、本国の本社とコミュニケーションを取る場合には日本語も必要になるなど、言語対応はグローバル経営を行ううえでの大きな課題です。
グローバル経営を成功させる「データ統合基盤」の重要性
情報の収集から共有まで効率的に進めてグローバル経営を成功させるには、現地法人と本国の本社でスムーズに情報を共有する仕組み作りが重要です。情報を一元管理する代表的な手法として、データ統合基盤の概要を紹介します。
「データ統合基盤」とは
データ統合基盤は、財務情報や顧客情報、マーケティング情報、人事情報などのあらゆる情報を一元管理する仕組みです。情報の収集と共有をスムーズに進めることで業務の効率化はもちろん、製品の標準化やコンプライアンス遵守、リスク管理にも大きな恩恵をもたらします。迅速かつ正確な経営判断を実現し、グローバルでの競争力強化と持続的成長を可能にするのがデータ統合基盤の特徴です。
データ統合基盤の代表例に挙げられるのがERP(Enterprise Resources Planning)です。ERPは、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を管理し、経営と業務の最適化を図る概念やシステムを指します。部署ごとに業務上のルールや進め方に違いがあると、出てくる結果もバラバラになってしまいます。企業内のすべての情報やルール、業務プロセスを集約させ、統合的に管理するのがERPの目的です。
グローバル経営に強い「SAPERP」の特長
SAP(Systemanalyse und Programmentwicklung)は、ドイツのソフトウェア会社が提供するERPです。世界シェア1位のERPであり、特に製造分野で豊富な導入実績があります。中には会計業務のみでERPを名乗っている製品もありますが、SAPの場合はほぼすべての業務領域を網羅しています。対応できる業務が多岐にわたるため、多事業を展開するグループ経営にも導入しやすい点がメリットです。
また、SAPは130か国以上の地域と40以上の言語に対応しています。データ統合基盤だけでなく、多拠点での使用や現地法令・規制の反映に活用できるのも特長です。
参照元:SAPジャパン-ビジネスソフトウェア、ソリューション、テクノロジー&ビジネスアプリケーション
(URL:https://www.sap.com/japan/index.html)
SAPを活用したグローバル経営の成功事例:オプテックス株式会社
【オプテックス株式会社の基本情報】
・本社:滋賀県大津市
・代表者:代表取締役社長 上村透
・設立:1979年(2017年に持株会社体制へ移行)
・資本金:3億5,000万円
・事業内容:各種センサーの開発・販売
オプテックス株式会社は、自動ドアセンサーや屋外用の侵入検知センサーで世界シェア1位のグローバル企業です。SAP導入前には、各国の拠点で使用しているシステムがバラバラで、情報の共有に時間と手間がかかってしまう課題がありました。特に、注文や在庫管理は表計算ソフトを使って手作業で打ち込み、本社でデータを集計する手法をとっていたため、ミスが少なくなかったそうです。
このような背景から、オプテックス株式会社ではSAPの導入を決意。その結果、実在庫や積送中在庫を正確に把握できるようになり、現場スタッフの負担が大幅に軽減されました。さらに、生産から販売までの流れが効率的になったことで、顧客が製品を手にするまでの時間が大幅に短縮され、満足度の向上にもつながっています。
まとめ
市場・販路の拡大や製造コストの削減などのメリットがある一方で、グローバル経営には少なからず課題もあります。成功に導くためには、カントリーリスクや複雑な経営管理、言語・文化的な差異に十分注意し、適切な対策を講じていくことが重要です。
グローバル経営が抱える課題の解決方法のひとつに「SAP」の導入が挙げられます。SAPはデータ統合基盤としてはもちろん、現地法令・規制の反映にも活用できます。効率的な情報共有や迅速な経営判断が可能になるため、グローバル経営を行う際はぜひ導入を検討してみてください。