現代のビジネス環境は、日々進化する技術とともに変化を続けています。その中で、業務効率化と競争力向上を目的に、広く導入されているのがERPシステムです。本記事では、AI搭載型ERPの基本的な特徴や導入メリット、実際の活用事例、導入にあたって考慮すべき課題、AI搭載型ERPの将来性について解説します。
AI搭載型ERPとは
AI搭載型ERPは、従来のERPシステムにAI技術を組み合わせることで、業務の効率化や意思決定の高度化を実現するシステムです。AIの活用により、膨大なデータの分析や予測が瞬時に行えるため、企業は迅速で適切な意思決定が可能になります。
AIとは
AIは、Artificial Intelligenceの略で、コンピューターに人間のような知的行動を代行させる技術や仕組みを指し、日本語では人工知能と呼ばれています。AIの研究は1940年代から1950年代にかけて始まり、進化し続けてきましたが、特に注目を集めたのは「機械学習」という技術が普及した第3次AIブームからです。この時期から、コンピューターが大量のデータをもとに自ら学習し、複雑な問題を解決する能力が向上し、生成AIが登場してからはAI技術の可能性をさらに広げました。
2022年には、アメリカのOpenAI社が「ChatGPT」という生成AIサービスを公開し、世界的な話題にもなりました。ChatGPTをはじめとする生成AIでは、テキスト生成だけでなく、画像、動画、音声などのコンテンツ作成が可能となり、さまざまな業界で新たな価値を提供しています。
ERPとは
ERP(Enterprise Resources Planning)は、日本語では「企業資源計画」または「統合基幹業務システム」と訳されます。企業が保有する人材、設備、資金、情報といったさまざまな資源を最大限に活用し、効率の良い経営を行うための考え方や仕組みのことです。その中心的な役割を果たしているのが「ERPシステム」です。このシステムは、企業内の多岐にわたるデータを一元的に管理・活用できます。例えば、販売や購買、在庫管理、人事、会計といった業務データをひとつのプラットフォームに統合することで、部門間での情報共有が円滑になり、業務効率化が実現できます。
AI搭載型ERPの登場
近年、企業経営の迅速な意思決定や効率化が求められる中で、ERPにAIの技術を組み合わせた「AI搭載型ERP」が注目されています。特に中小企業においては、限られたリソースを最大限に活用し、より迅速な意思決定を行うことが競争力を高めるうえで重要です。
従来のERPは、企業内のデータを一元管理し、部門間の情報共有や業務効率化を実現するものでしたが、蓄積された膨大なデータを正しく活用するためには、専門知識に加えて一定の時間と労力が必要であり、データの分析や活用が十分に行われないケースも少なくありませんでした。しかし、AI技術がERPに統合されたことによって、データ量が多くても効率的に分析することが可能となっています。
AI搭載型ERPの主な機能
AI搭載型ERPでは、従来のERPにはない高度な機能が組み込まれており、さまざまな業務プロセスが自動化されています。手作業が多い業務も、AIがデータを分析し、自動的に適切な対応を行うことで、作業時間の短縮とヒューマンエラーの削減が可能です。
AIの強みである機械学習やディープラーニングを活用することで、未知のデータに対する予測やより複雑なタスクの処理が可能になりました。こうした機能を用いることで、例えばこれまでの販売データや顧客の購買履歴を基に、次回の購入傾向やニーズを予測し、マーケティング戦略を最適化することなども可能です。カスタマイズされたデータ分析は、顧客満足度の向上や売上の増加につながります。
AI搭載型ERPには、リスクを事前に予測する機能もあり、例えば、「SAP Business AI」では、過去の取引データや支払履歴を基に、請求書の支払遅延リスクを予測することが可能です。この情報を基に、正しい対策を講じることで、キャッシュフローの安定化や未回収リスクの軽減ができます。
AI搭載型ERPを導入するメリット
AI搭載型ERPは、企業の業務効率を劇的に向上させるためのツールとして、今後ますます多くの企業に導入が進んでいくと想定されます。ここでは、AI搭載型ERPを導入することで得られる具体的なメリットについて解説します。
高度な需要予測ができる
AI搭載型ERPは、従来のERPにはないデータ分析力とパターン認識能力を備えています。AIの強みは、膨大なデータを短時間で処理し、隠れたパターンを見つけ出す能力です。AI搭載型ERPを活用することで、場合によっては人間が行うよりもデータドリブンな意思決定が可能になるため、高度な需要予測を必要とする業界や競争が激しい市場ではAI搭載型ERPの導入が役立ちます。
業務効率化を進められる
会計処理や在庫管理といった業務では、データ入力や計算ミスが発生しがちですが、ERPを活用すればこれらのリスクの軽減が可能です。その中でも、AI搭載型のERPであれば、さらに進化した自動化機能を活用し、業務効率化を進められます。
AI搭載型ERPの強みは、過去のデータを学習し、未来の状況を予測する能力です。過去の売上データや季節ごとの需要パターンを分析し、最適な在庫量を自動で調整する機能があり、AIがリアルタイムで状況を把握し、正しい対応を取ることで、在庫過多や欠品といった管理上の課題を防ぐことも可能になりました。
内部統制をしっかり行える
ERPでは、企業内の作業履歴を詳細に記録し、ユーザーと紐づけることで、内部統制を強化することも可能です。業務プロセスの中で発生する作業履歴をすべて記録し、誰が、いつ、どのような操作を行ったのかを明確にします。この仕組みによって、万が一不正行為が発生した際にも迅速に人物の特定ができるようになりました。
特に、AIを搭載したERPはこの仕組みをさらに発展させ、会計データや在庫データなどのイレギュラーな動きを見つけ出すことで、より高度な方法で不正行為を検出でき、問題の早期発見と迅速な対処が実現します。
データドリブン経営に役立つ
データドリブン経営は、膨大なデータを収集・分析し、その結果を基に効果的な戦略や判断を行う手法です。近年、顧客の行動が複雑化し、従来の経験や直感に基づく意思決定では、このような変化に迅速に対応することが困難になりました。そのため、膨大なデータを分析し、経営判断に役立てるデータドリブン経営の必要性が高まっています。
AI搭載型ERPは、データ分析機能に優れているため、企業のデータドリブン経営をサポートします。具体的には、市場の変化や競合他社の動き、顧客の消費行動などを多角的に分析することにより、適切な戦略の立案や迅速な意思決定、効率的なリソースの配分などが可能となります。
公平性の高い人事評価につながる
どれだけ客観性のある評価制度を採用していたとしても、評価者である上司の主観を完全に取り去ることは困難です。主観的な評価は、従業員間で不公平感を生み、モチベーションやチームワークに悪影響を与えることも考えられます。
しかし、AI搭載型ERPを活用すれば、売上成績や業務の進捗状況、チームワークや問題解決能力など、複数のデータから多面的な分析ができるため、人間が行うよりも公平な評価を下すことが可能です。
AI搭載型ERPの課題
AI搭載型ERPは、多くの業務を効率化し、企業の競争力を向上させる革新的なツールとして注目されるようになりました。しかし、その導入や運用にあたっては、いくつかの課題が存在します。ここからは、AI搭載型ERPが抱える主な課題やそれを解決する方法について解説します。
大量のデータを管理する必要がある
AIは過去のデータからパターンを学び、需要予測や意思決定をサポートします。しかし、この学習が正確なものとなるためには、まず精度の高いデータが必要です。また、膨大なデータを取り扱うためのデータ管理体制の整備も重要です。特に、顧客情報や個人情報など、プライバシーに関わるデータを扱う場合、企業はデータの取り扱いや保存方法に十分配慮しなければなりません。
セキュリティ対策の強化も必要です。データの漏洩や不正アクセスを防ぐためには、強固なセキュリティ対策を施し、システムの脆弱性を最小限に抑えることが重要です。AIが利用するデータが企業にとって重要な資産となるため、そのデータを安全に管理することが、企業の信頼性や競争力に直結します。
AI人材が不足している
現在、AIに関する専門的な知識を持つ人材は不足しており、特に中小企業にとってはその傾向が際立ちます。機械学習やデータ解析、AIアルゴリズムに精通した人材は、依然として市場での需要が高く、確保が難しいのが現実です。システムを導入しても、機械学習のモデル構築やデータの前処理などは、専門的なスキルを有する人材がいなければ効果を十分に引き出すことが難しくなります。
そのため、中小企業では、AI技術を扱うスキルを持った人材を自社で育成するか、外部の業者に依頼する必要があります。加えて、AIの導入には多くの試行錯誤が伴うため、企業内での知識の共有やチームでの協力が不可欠です。しっかりと人材を確保し、AIの技術を業務に生かすための体制づくりが求められます。
AIの回答の整合性を確認する必要がある
AIが機械学習によって提供する回答は常に正確とは限りません。そのため、これをそのまま業務に反映させることは企業にとってリスクを伴います。特に、経営判断などの重要な意思決定においては、AIだけに依存するのは非常に危険です。
そのため、AIが打ち出した結果が正確であるかどうか、人間がしっかりと確認することが重要です。人間の判断を加えることで、AIの予測や回答に対する整合性を保つことができ、誤った情報や予測によるトラブルを未然に防ぐことができます。特に複雑なデータやコンテキストを扱う場合、AIだけでは不十分な場合があるため、最終的な確認と判断は人間が担う必要があります。
AI搭載型ERPの将来性
AI搭載型ERPは、今後さらに進化していくと予想されています。現状では、AIは主に過去のデータを基にした予測や分析を行っていますが、未来にはさらに多くのデータを学習することで、企業ごとに最適化された活用が可能になるかもしれません。例えば、顧客の行動パターンやニーズを学習することにより、個別企業の業務や戦略によりフィットした判断ができるようになると考えられます。
また、AIとERPが他のテクノロジーと連携することで、さらに業務効率化が進むことが見込まれています。具体的には、OCR(光学文字認識)技術を活用して書類作成やデータ入力を自動化したり、ドローンやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)を利用して現場の作業を効率化したりすることが可能です。これにより、作業時間の短縮や人的ミスの軽減が期待でき、より効率的な業務運営が行えるようになります。
SAPなどの企業は、ユーザーがAI搭載型のERPシステムを直感的に使えるよう、デザイン面でも企業努力をしています。
SAP Business AIとは
SAP Business AIは、ビジネス利用に特化したAIであり、その実用性が高く評価されています。AI搭載型ERPシステムの導入においてよく問題視される倫理やセキュリティ、プライバシーなどの課題についても、SAP Business AIは業界最高水準です。
また、SAP Business AIは、特定の部門に留まらず、財務、人事、サプライチェーン、マーケティングといった幅広い業務領域で利用可能です。企業全体でAIを最大限に活用できるため、各部門が個別に発揮するパフォーマンスを向上させることができます。
SAP Business AIのイノベーション
SAP Business AIは、企業の生産性と効率性を向上させるために設計された最先端のAIソリューションです。SAP Business AIがもたらすイノベーションについて、具体的な例を挙げながらその可能性を探ります。
人事プロセスの合理化
SAPのAIコパイロットであるJouleは、人事部門において業務効率化を実現する優秀なツールです。Jouleは、日常的な人事タスクを迅速に処理し、従業員データの管理から人事評価、採用プロセスの管理、給与管理、福利厚生の手続きに至るまで、さまざまな業務を合理化・自動化します。これにより、人事部門は時間を節約し、より戦略的な業務に注力できるようになります。
市場の変化に柔軟に対応
AIを活用することで、企業は戦略立案や計画策定のプロセスを従来よりもスピーディーに進めることが可能です。大量のデータを短時間で分析し、将来の市場動向や業務のパフォーマンスを予測するため、迅速かつ的確な意思決定をサポートします。この機能により、市場の変化にも柔軟に対応しやすくなり、競争力の維持が可能になります。
また、調達や購買といった業務領域でも、AIは大きな力を発揮します。例えば、最適な調達先を瞬時に見つけたり、購買パターンを分析したりしてコスト削減につなげることが可能です。また、請求書の分類処理を自動化することで、これまで手作業で行っていた煩雑な業務を効率化でき、人的ミスの削減にも貢献します。
セールスの強化・カスタマーサービスの向上
セールスの強化やカスタマーサービスの向上には、顧客一人ひとりに合ったデータの活用が重要です。SAP Business AIは、この分野で特に優れたツールを提供しており、カスタマーサービス向けに設計されたプロンプトを活用することで、迅速かつ効率的な対応を実現します。これにより、顧客満足度を向上させ、長期的な関係構築にも貢献できるようになりました。
チームでの営業活動においても、SAP Business AIは支援ツールとしておすすめです。営業の際に役立つヒアリング用の資料や、メール作成をサポートするプロンプトが用意されているため、営業活動の精度とスピードを向上させることが可能です。
まとめ
AI搭載型ERPは、人材不足や複雑化する経営課題に直面する中小企業にとって有効な解決策です。特に、データドリブン経営は、効率的かつ効果的な意思決定をサポートします。今後、AI技術のさらなる進化により、これらのシステムはより多くの機能を提供し、さらに幅広い分野での活用が期待されています。企業が持続的な成長を目指すためには、これらのツールを導入し、活用することが重要になります。最新のSAPS/4HANAをはじめとするAI搭載型ERPを通じて、未来を見据えた経営基盤を構築し、より高いレベルの業務効率化を実現しましょう。