ERPは、企業の業務プロセスを統合し、効率化と標準化を促進する重要なツールです。しかし、導入には多くの課題が伴い、成功のためにはいくつかのポイントを押さえる必要があります。本記事では、ERP導入事例15選を通じて、各企業がどのようにERPを活用して経営改革を実現したかを紹介します。各企業の事例をもとに、導入の背景や効果、成功の秘訣について解説します。
ERP導入事例15選!活用を失敗しないための勘所を紹介
企業の成長と効率化を図るためには、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の導入が非常に有効です。以下では、ERP導入に成功した企業の事例を紹介し、各社がどのような課題を解決し、どのように活用しているのかを具体的に解説します。
事例1.赤城乳業
赤城乳業株式会社は「ガリガリ君」で知られる、老舗の中堅アイスメーカーです。同社は利益を圧迫する不動在庫と不十分な原価管理に悩まされていました。特に、4~9月の売上が大部分を占めるという製品の特性上、春先から備蓄在庫を増やして夏場の需要に対応する必要がありました。
この課題を解決するために、同社は2014年1月にSAP ERPを導入しました。これによりPSI(生産、販売、在庫)管理が強化され、不動在庫の削減を実現すると同時に、原価管理の徹底によってコスト削減も達成しました。
結果として在庫管理や原価管理が効率化され、事業全体のパフォーマンスが向上したことで、同社の売上高は2010年の300億円弱から2023年には570億円に倍増しました。
事例2.マツモトプレシジョン
マツモトプレシジョン株式会社は、プレス加工を専門とする企業で、高品質なプレス部品を製造しています。多様な製品ラインアップと高い技術力で、幅広い業界に対応しています。
同社では従来、生産管理や在庫管理が手動で行われており、効率性の低下やデータの不正確さが問題となっていました。そこで2021年にSAP ERPを導入し、生産管理、在庫管理、財務管理など、企業全体の業務プロセスの統合を図りました。
その結果、生産計画の最適化や在庫管理の効率化を達成したほか、データの一元管理によってリアルタイムでの情報共有ができるようになり、意思決定の迅速化も実現しました。
ERP導入後、売上総利益は30%、営業利益率は3%改善し、全従業員の基本給与は4%アップしています。
事例3.オプテックス
オプテックス株式会社は、人感センサーや自動ドアセンサーの分野で国内外に展開する精密機器メーカーです。独自技術を活かし、セキュリティやIoT関連製品で高いシェアを誇ります。しかし、急速な海外展開と事業多角化で、拠点ごとの異なるシステム運用による情報共有の遅れや手間が発生し、在庫管理の非効率や需要予測の難しさが問題でした。
そのため、オプテックスは2018年にSAP ERPを導入しました。導入は、経営層の強いリーダーシップのもと、トップダウンで推進されました。導入後は、統一されたグローバル基幹システムを構築し、販売や在庫、財務データをリアルタイムで可視化することに成功し、需要予測の精度向上や在庫削減を実現しました。
SAP ERPを導入したことで上記の課題を克服し、5名の人員の効率化、および業務担当一人あたりの売上高の34%増加を達成しています。
事例4.サンゲツ
株式会社サンゲツは、建材メーカーとして知られ、多様な建築材料を提供しています。しかし、従来のシステムでは、業務効率の向上やコスト削減が難しく、業務プロセスの最適化が求められていました。
そこで同社では2018年にSAP ERPを導入しました。これにより、生産管理、在庫管理、財務管理などの業務プロセスを一元化し、業務効率を大幅に向上させました。また、データの透明性が高まり、リアルタイムでの情報共有を実現しました。その結果、生産計画の精度が向上して、在庫の最適化が図れるようになり、在庫管理のコスト削減、経営効率の大幅な向上を達成しています。
ERP導入の効果としては、単体月次決算・四半期決算の短縮、部門全体の残業時間の短縮、EDI比率の増加(40%から65%に)などが挙げられます。
事例5.ニチバン
ニチバン株式会社は、粘着テープの国内トップメーカーで、医療材や文具、産業資材などの開発・製造・販売といった多岐にわたる事業を展開しています。同社は、2030年を見据えた中長期ビジョン「NICHIBAN GROUP 2030 VISION」に基づき、グローバルな経営基盤の構築を目指していました。しかし、部門ごとに独立したシステムによって、データ連携に手間がかかるなど、迅速な意思決定が困難な状況でした。
2019年にSAP S/4HANAを中心としたグローバルERPパッケージを導入し、1年間という短期間で本稼働を開始しました。その結果、国内外のシステムが統一され、データの一元化と業務プロセスの標準化が達成できました。これにより、評価指標の統一化や人材の流動性を高めるための土台が整いました。
また、今まで見えていなかった工程ごとの実際原価などが見える化されたことで、業務・運用改善が進み、その先にある組織レベルでの働き方改善の実現にも期待が持たれています。
事例6.遠藤照明
株式会社遠藤照明は、「個と組織の調和と永続」を重視しており、後発ながら高い評価を得ている照明器具の専門メーカーです。同社は拠点数の増加や海外取引の増加に伴い、業務の統一化と決算の迅速化が課題となっていました。
そこで、2009年にSAP ERPの導入プロジェクトを開始しました(稼働開始は2011年)。プロジェクトには、情報システム部や営業事務、経理部門のメンバーが参加し、タイ・中国の子会社にも展開しました。
ERPの導入により、同社は決算スピードを向上させ、その結果、経営陣の迅速な意思決定が実現しました。また、データの一元化による属人化を解消しました。さらに、海外子会社との情報共有が迅速かつ正確に行われるようになり、管理指標の信頼度も向上しました。
事例7.TOA
TOA株式会社は、業務用の音響機器やセキュリティ機器を製造している専門メーカーで、国内外に多くの拠点があり、グローバルに展開しています。SAP ERPは1999年から段階的に導入を開始し、2015年には海外拠点へも展開しました。
導入前は、国内外で異なるシステムを利用していたため、経営情報の一元化が困難でしたが、採用後はリアルタイムでのデータ共有が実現し、月次でしか得られなかった経営指標が日次で把握できるようになりました。これにより、経営のスピード感が向上し、内部統制や法改正などへの迅速な対応も実現。また、「地産地消」を推進しつつも、世界共通の基準を整備することで、グローバル経営の基盤が強化されました。
事例8.ヨコオ
株式会社ヨコオは、車載通信用のアンテナ製品や医療機器用デバイス製品などを製造・販売するグローバル企業です。同社では複雑化したSCM(サプライチェーンマネジメント)を支えるため、SAP ERPの導入を決定しました。
ヨコオはグローバル市場での競争力強化を目指していましたが、当時のIT基盤はオフコンと手作業での対応に依存しており、成長に耐えられる仕組みが必要でした。そこで2007年にSAP ERPを導入し、全社的な情報基盤の確立を目指しました。
ERPの導入により、内部統制への対応が評価され、監査法人とのやり取りもスムーズになりました。また、グローバルなSCM情報基盤が確立され、コミュニケーションが円滑になりました。さらに、手作業による会社間の売買照合・調整業務が撤廃され、コスト削減も実現しました。
事例9.ファインネクス
ファインネクス株式会社は、冷間鍛造部品の製造を行う企業で、日本一小さな村である富山県舟橋村から世界市場を目指しています。同社は、主力製品であったPGAピンが市場から消えるという危機に直面し、経営の全体最適化を図るためにSAP ERPを導入しました。
同社では、管理会計の仕組みが不十分で、製品や販路ごとの損益が把握できないという問題を抱えていました。また、個別最適により各部門の進捗・生産管理が難しく、生産調整に多くの時間を費やしていました。
そこで、2015年にSAP ERPの導入を決定しました。全体最適を重視したトップダウンのアプローチによって社長がリーダーとなり、情報システム部門とユーザー部門が協力して進められました。
導入後は生産管理の統合が実現し、在庫状況や進捗の可視化が実現しました。また、品目別の実績原価計算により、黒字・赤字商品が把握できるようになり、経営管理の軸が変化しました。さらに、部門間の情報共有が改善され、全体の生産性が向上しました。
事例10.テクノホライゾン
テクノホライゾン株式会社は、受託開発型製造業から自社ブランド製品の製造や教育事業に転換し、経営改革を進めるなかでSAP ERPを導入しました。導入前、同社はプロジェクトごとの業務プロセスの複雑化や手作業による管理に悩んでおり、リアルタイムな経営意思決定ができない状況でした。
ERP導入の目的は、全体最適を目指し、経営指標をリアルタイムで把握することにありました。2008年に導入後、企業全体の業務が統合されたことで、経営層は迅速な意思決定が可能となり、M&Aや事業撤退など、大胆な経営戦略を実行できるようになりました。導入ベンダーを使わず自社導入を行ったことで、初期導入コストやランニングコストも抑えられ、スピード感のある経営基盤が整いました。
事例11.河北ライティングソリューションズ
河北ライティングソリューションズ株式会社は特殊光源の専門メーカーで、医療用光源で世界シェア70%を誇っています。同社では、既存のシステムに機能的な限界を感じていました。そこで、グローバルビジネスの成長を見据えた経営基盤の構築や、一元データに基づいた迅速な意思決定などを見据えてSAP ERPを導入しました。
2016年にSAP ERP導入を開始したことで、タイムリーな経営判断に資する情報の抽出やデータの一元化による発注・在庫管理業務の簡素化、業務効率化と月次決算早期化、情報セキュリティの強化・ペーパーレス化などの効果が得られました。
事例12.SOLIZE
SOLIZE株式会社は1990年の創業以来、デジタルモノづくりを革新し続けている企業です。同社では、顧客の大半を占める自動車業界の構造変化により、次のステージへの成長を見据えた企業体制の再構築が求められていました。なかでも業務プロセスの標準化とデジタル基盤の整備が大きな課題でした。
そこで、変化する社会や産業のニーズに対応し、次の30年の成長を見据えた経営基盤強化のため、2020年からSAP ERPを導入しました。
その結果、部門間での業務プロセス統一と標準化が図られ、属人化の解消と共通言語の確立が実現しました。業務プロセスの変更時にもスムーズに連携できるようになり、間接業務の社内シェアード化が進みました。また、デジタルデータの活用により、次の成長に向けた経営基盤の強化を実現しました。
事例13.ナミックス
ナミックス株式会社は、エレクトロケミカル材料の研究・開発、製造を主たる業務とする企業です。
同社では、顧客である電子部品メーカーやコンピューターメーカーが海外進出するなかで、台湾拠点設置を視野に入れていましたが、既存の基幹システムではハードウェアやOS変更のたびにアプリケーションの改修が必要なことが問題でした。そこで、業務の標準化と効率化、グローバル市場での競争力強化を目指して、2010年にSAP ERPを導入し、2012年に本番稼働、その後、台湾拠点にもスムーズに導入されました。
導入後は受注から出荷までの情報をタイムリーに把握できるようになり、業務の標準化が進みました。また、顧客からの信頼度も向上し、営業面でも効果を実感しています。さらに、システムの拡張性や柔軟性により、ビジネスの変化に迅速に対応できるようになりました。
事例14.柏木工機
柏木工機株式会社は、機械工具の専門商社です。2016年に社長に就任した柏木秀太氏は、経営改革と営業改革を並行して進め、ビジネスモデルの転換を図っています。
同社は、他社との差別化が図れないサービス、データ活用の不足、顧客セグメントの見直しなどが課題でした。これらの解決に向け、2016年からSAP Commerce Cloud(CX)とSAP Business ByDesign(ByD)の導入を検討し、2018年にByDを導入しました。
導入により、インサイドセールスの業務効率化が図られ、人員を33名から26名に減少できました。また、リモートワーク化が進んだことで、FAX受注で出社が必須ではなくなり、リモートワークが100%可能となりました。取引先の満足度も向上し、ECサイトの利用者からもポジティブな声が寄せられています。
事例15.小木曽工業
小木曽工業株式会社は、硬質クロムめっき処理や転造ボールねじ、機械加工品などを製造している、80年以上の歴史を持つ企業です。
2015年当時、同社は既存事業が安定しているものの利益率が低く、必要な品目を適正なタイミングで得意先へ届けられない状況でした。また、一元化されたデータがなく、経営陣は困難な舵取りを余儀なくされていました。
そこで会社経営と現場で詳細なデータを共有し、タイムリーな運営判断を行って効率的なモノづくりができるように、2016年1月にSAP ERPの導入プロジェクトを開始、同年10月にシステムが稼働しました。
これにより、月次決算の締め日数が7日間から3日間に短縮され、生産計画の精度が向上し、ピーク対応能力も向上しました。また、業務プロセスの標準化で業務効率が大幅に向上し、従業員の残業時間も削減されました。さらに、生産量・材料発注量の過不足が減少し、顧客満足度も向上しました。
ERPの導入を成功させる秘訣
ERPの導入を成功させるためには、適切な戦略と実行が必要です。トップダウンでの導入と「Fit To Standard」の概念を取り入れることで、組織全体の調整とシステムの最適化が実現します。
トップダウンでの導入を行う
オプテックス社の事例に見るように、ERP導入には経営層から従業員まで一貫したトップダウンの推進が不可欠です。経営層が導入の意義やメリットを全社員に明確に伝え、理解を得ることが重要です。ただし、実際にシステムを使うのは従業員であり、彼らが自分事として捉え、前向きに取り組む姿勢も必要です。双方の目指すところが一致することで、導入後の活用が円滑に進み、効果的なシステム運用が実現できます。
「Fit To Standard」の概念を取り入れる
ERP導入においては、自社の業務にシステムを合わせる「Fit&Gap」ではなく、システムの業務プロセスに自社の業務を合わせる「Fit To Standard」の概念を取り入れることが重要です。
Fit&Gapでは、自社固有の業務に合わせるためにアドオンの開発が必要となり、時間やコストがかかるだけでなく、バージョンアップ時に互換性の問題が生じることもあります。一方、Fit To Standardは、業務プロセスが大きく変わるため現場の負担や反発が生じることもありますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務の変革には必要なアプローチです。Fit To Standardの概念によって、業務の標準化と効率化が図られ、長期的な視点でのシステム運用が実現されます。
ERP導入を検討中なら「GROW with SAP」がおすすめ
SAPは、ほぼすべての業務領域を網羅したNo.1のERPであり、オンプレミスからクラウドへの移行により、都度アップデートが行えます。実際にSAP ERPを使用している企業の8割は中小企業であり、本記事で紹介している事例の企業も中堅・中小企業です。SAPは会計だけでなく、そのほかの多くの業務領域をカバーしており、豊富なパラメータ設定が可能です。
2023年からはSaaS型ERPパッケージ「GROW with SAP」が提供され、中堅・中小企業のスピーディーで確実な経営革新と成長をサポートしています。ERPの導入を検討しているのであれば、「GROW with SAP」を強くおすすめします。
GROW with SAPについて詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:GROW with SAP
https://www.sap.com/japan/products/erp/grow.html
まとめ
ERPは、企業の業務プロセスを統合し、業務の効率化やスピーディーな情報共有を実現するために重要なツールです。ERPをうまく活用することで、迅速な意思決定を行い、将来の成長に向けた経営基盤の強化を図れます。
ERP導入を成功させるには、トップダウンでの強い推進力や「Fit To Standard」の概念を採用することが重要です。自社特有の業務に合わせるのではなく、標準化されたプロセスに合わせることで、長期的に柔軟で安定した運用が可能です。SAPの「GROW with SAP」は中堅・中小企業にも適したERPソリューションであり、スピーディーかつ確実な経営革新をサポートします。