サイロ化とは?組織内の情報断絶が生じる原因とその解消方法

 クラウドERP導入ガイド編集部

現代のビジネス環境では、部門間やシステム間の連携がますます重要視されています。しかし、組織内で情報が閉鎖的に管理され、部門間の連携が滞る「サイロ化」は、多くの企業で課題となっています。サイロ化は業務効率や意思決定の遅れ、無駄なコストの発生を招き、最悪の場合、競争力の低下につながります。本記事では、サイロ化の原因や問題点を整理し、その解消に向けた効果的な対策を解説します。

サイロ化とは?

サイロ(silo:貯蔵庫・格納庫)化とは、組織内のチームやシステムの情報共有体制が閉鎖的になっており、コミュニケーションおよび知識の伝達が断絶している状態です。サイロ化を放置すると部門間連携やチーム間の交流が滞り、それぞれが独自の業務に集中してしまう「タコツボ化」を招きかねません。反対に、タコツボ化がサイロ化の要因になるケースもあり得ます。また、データが分散管理されている状態では、情報の整合性や正確性を担保できず、経営分析や意思決定のプロセスに負の影響を及ぼすリスクが懸念されます。特に中小企業では、こうした部門やチームの分断が業務全体の滞りを生みがちです。

組織のサイロ化

複雑な組織構造や複数の拠点が存在する大企業の場合、明確な役割分担と厳格な統制が求められるため、中央集権的な意思決定を採用する縦割り型の組織構造が適している面もあると考えられます。しかし中小企業の場合、情報の断絶が生じると「部門間連携の柔軟性」「スピーディーな意思決定や経営判断」「社内コミュニケーションの円滑性」「人材の多能工化」といった大企業にはない強みが失われます。

組織のサイロ化が起こるとナレッジやノウハウの共有が阻害され、業務の属人化や技術継承問題の要因となる可能性があります。こうしたリスクを最小化するためには、全社的な連携を重視したフラットな組織構造の確立が必要です。

データのサイロ化・システムのサイロ化

データのサイロ化は、情報が各部門で独立的に管理されており、他部門との連携・共有が滞っている状態を指します。たとえば在庫管理部門と販売部門が個別にデータを管理している場合、製品の原価や定価、カラー展開の種類、サイズのバリエーションといった製品マスターデータに不整合が生じるリスクが懸念されます。

システムのサイロ化は、各部門が独自のシステムを運用することにより、ファイルの共有や連携に支障をきたしている状態です。たとえば各部門で異なるシステムを運用している場合、データのフォーマットやファイルの表示形式が異なることから、データの統合やファイルの変換を行うプロセスでエラーが発生するケースもあります。

このような状態では部門の垣根を超えた情報共有や業務連携に遅滞が生じ、さらに各種データの一貫性を確保できず、市場調査や需要分析、財務分析といったデータ分析の精度が低下します。これらのリスクを回避するうえでは、組織内に散在しているデータや分散されているシステムを統合し、いかにして全社横断的な連携体制を構築するかが重要な課題です。

サイロ化によって生じる問題

サイロ化によって閉鎖的な情報共有体制が形成された場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

業務効率が低下する

サイロ化によって生じる問題のひとつは業務効率の低下です。たとえば新規顧客を獲得するためには、マーケティング部門が受注確度の高い見込み顧客を発掘・育成・選別し、営業部門に顧客情報を引き渡す必要があります。その際、マーケティング部門から営業部門にファイルを送付したり、渡されたデータを営業部門のシステムに再入力したりといった手間が生じます。

データを活用する機会を逃す

サイロ化のデメリットとして挙げられるのが、データ活用の機会を逃してしまう点です。たとえば需要予測の精度を高めるためには、原材料費や予算、製造リードタイム、収益性などを踏まえつつ、過去の販売実績や見込み顧客の購買心理、競合他社の販売動向、季節的な需要変動などを多角的に分析しなくてはなりません。

分析にあたっては、購買部門・製造部門・在庫管理部門・販売部門といった複数部門のデータをひとつのプラットフォームに集約し、統合的に管理する必要があります。このとき情報が分散管理されている状態では、各種データの収集と分析に多大な時間を要し、データ活用の機会を逃しかねません。

DXが妨げられる

DXの阻害につながる点もまた、サイロ化のデメリットのひとつです。DXは「先進的なデジタル技術の活用による変革」を意味する概念で、国内では多くの企業でその実現が喫緊の経営課題となっています。

経済産業省は「DXレポート」の中で、多くの企業が各部門で個別のシステムを管理し、全社横断的なデータ活用の体制が整備されておらず、現状のままではデジタル競争に取り残される可能性があると指摘しています。こうした競争力の低下が経済損失につながることを、同レポートでは「2025年の崖」と表しました。DXを実現するためには先進的なITインフラを整備するのみならず、部門を横断した情報共有体制を形成し、勘や経験などの曖昧な要素に依存しないデータドリブンな経営体制を整備することが必要です。

参照元:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)(p.2)|経済産業省
(URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf

意思決定に遅れが生じる

サイロ化の問題点は意思決定の遅れです。市場の成熟化が進み、競合他社との差別化が困難な時代へと移り変わりつつある中で市場の競争優位性を保つためには、データドリブンに基づくロジカルかつスピーディーな意思決定が不可欠です。サイロ化が生じている組織では、情報が孤立した状態で保管されており、データの収集や分析に相応の工数を要するため、意思決定に遅滞が生じます。それによって競合他社の後手に回るリスクが高まり、商機の喪失やブランド価値の低下、顧客の流出といった問題を招く可能性があります。

無駄なコストが発生する

組織内のサイロ化を放置した場合、さまざまな領域で無駄なコストが発生します。たとえば財務・人事・購買・生産・在庫管理・販売・物流などの基幹業務は、各部門の基幹系システムで個別に管理するのが一般的です。その場合、各システムに運用・保守のコストが発生します。さらに、他部門のデータ参照に許可が必要といったコミュニケーションコストの発生も想定されます。こうした無駄なコストを削減するには、分散管理されているデータを統合管理する仕組みが必要です。

顧客満足度やサービスの質が下がる

サイロ化が顧客満足度やサービス品質の低下を招くリスクも懸念されます。たとえば営業部門とカスタマーサポート部門で顧客情報が共有されていない場合、各部門に対する過去の問い合わせ内容を把握できないため、前回と同じやり取りを繰り返したり、質問が重複したりする可能性があります。このような対応は顧客を不快な気分にさせるだけでなく、販売機会の喪失や契約解除につながりかねません。

また、小売店の接客マニュアルが統一されておらず、店舗によって対応が異なるという事態も起こり得ます。それによって顧客体験価値の一貫性が失われ、企業に対する信頼を損ねる可能性があります。

サイロ化により組織内の情報断絶が生じる原因

サイロ化が生じる原因はひとつではなく、さまざまな要因によって情報の断絶が引き起こされます。代表的な要因として挙げられるのが以下の3点です。

・縦割りの組織文化である
・業務プロセスごとにシステムが最適化されている
・独立採算制である

縦割りの組織文化である

先述したように、縦割り型の組織では情報の分断が発生しやすい傾向にあります。縦割り組織では上層から下層へ指示や情報が流れ、財務会計部門、購買部門、営業部門、製造部門、販売部門など、それぞれの部門が自らの権限と責任の範囲で業務を完結させる点が大きな特徴です。それによって部門間の連携は最小限に留まり、これが部門の垣根を超えたコミュニケーションを阻害する要因となります。たとえ同じシステムを運用している場合でも部門間の情報共有が希薄なため、データの一貫性が損なわれたり、業務プロセスの改善が見込めなかったりといった問題が生じ得ます。

業務プロセスごとにシステムが最適化されている

通常、各部門はそれぞれの業務に特化したシステムを導入するのが一般的です。これは各業務の効率化を促しますが、同時にデータ・システムのサイロ化を引き起こすリスクも伴います。たとえば営業部門では顧客管理システム(CRM)を活用し、製造部門は製造実行システム(MES)を運用している場合、それぞれが連携していなければ、営業部門の受注情報を製造部門に受け渡す際に手動でファイルを転送しなくてはなりません。それにより、手動で情報を転記する過程で入力ミスが発生する、あるいは仕様の変更や追加注文への対応が遅れるといった可能性があります。

独立採算制である

独立採算制を導入している企業では、各部門を独立した経営主体とみなし、経営に関わる意思決定や取り決めの権限をそれぞれの部門に委譲します。それによって責任の所在と各部門の収益性が明確になり、さらに意思決定の迅速化と市場環境への柔軟な対応が期待できる点がメリットです。しかし各部門が一企業として扱われるため、組織全体という視点で業務を進められなくなり、これもサイロ化を引き起こす要因となります。また、各部門に競争意識が生まれることで不毛な社内競争に発展し、従業員エンゲージメントが低下するリスクも懸念されます。

サイロ化の解消方法

情報の断絶が発生した場合、データの不整合や意思決定の遅れ、業務の非効率化など、さまざまな弊害が生じかねません。このようなリスクを回避するためには、以下に挙げる3つのポイントを意識することが大切です。

・社内全体で目標を共有する
・コミュニケーションを推進する
・情報を一元管理できるツールを導入する

社内全体で目標を共有する

サイロ化の解消を課題として定めたなら、まずは組織の現状を把握するとともに、情報が断絶するリスクの周知を図る必要があります。そして情報共有体制の形成に向けた目標を定め、そのビジョンをすべての従業員が共有しなくてはなりません。たとえば社内コミュニケーションの活性化を目的として社内SNSを導入しても、その意義が共有されていなければ単なる部分最適に過ぎず、やがて形骸化してしまうおそれがあります。そのため、まずは部門を横断した連携体制を構築するべく目標を定め、そのビジョンを組織文化として浸透させることが重要です。

コミュニケーションを推進する

サイロ化の解消には、部門の垣根を超えたコラボレーションの場を設けたり、日常的な交流を奨励する組織文化を醸成したりといった施策が求められます。先述したように、サイロ化は縦割り型の組織構造で発生しやすいため、横のつながりを活性化する仕組みが必要です。たとえば部門間の交流イベントや社内研修の実施により、部門を横断した交流を創出できます。また、新製品や新事業のアイデアを募る社内コンテストを開催することで、社内コミュニケーションの活性化につながるだけでなく、新市場の開拓やイノベーションの創出が期待できます。

情報を一元管理できるツールを導入する

サイロ化の解消にはデータを一元的に管理するツールが必要です。たとえば販売管理システムや在庫管理システムなどの基幹系システムは、基幹業務を統括する部門が個別に運用するのが一般的です。この場合、それぞれの基幹業務に最適化されたシステムで情報を管理できますが、データ・システムのサイロ化によって情報の断絶が発生します。そこで基幹業務を統合的に管理できるERPを導入することで、ひとつのプラットフォームで部門横断的な情報共有を実現できます。また、既存システムとの連携が可能なERPであれば、現状のITインフラに応じた情報共有体制の形成が容易です。

サイロ化の解消で得られるメリット

サイロ化の解消によって部門の枠組みを超えた情報共有体制を整備できれば、以下に挙げる4つのメリットを享受できます。

・業務効率が向上する
・社内データの価値が向上する
・顧客満足度やサービスの質が向上する
・データドリブン経営につながる

業務効率が向上する

全社戦略に基づく情報共有体制を形成できれば、組織全体の生産性を向上できる点がメリットです。たとえばERPの導入で基幹業務のデータを統合的に管理することで、分散管理されていた情報が統合され、部門間におけるファイルの受け渡しやデータの入力・集計などの工数を大幅に削減できます。手動によるデータの転送や転記といったノンコア業務のリソースを減らせると同時に、空いたリソースを企画の立案や戦略の策定といったコア業務に集中できるため、業務の効率化と生産性の向上が期待できます。

社内データの価値が向上する

情報共有体制を形成するメリットのひとつはデータ品質の向上です。データ分析の工程では、基本的にデータの「収集・蓄積」→「変換・加工」→「可視化・分析」というプロセスを辿ります。収集・蓄積されたデータには重複や表記ゆれ、または欠損値や異常値などが含まれているため、可視化・分析の前に収集・蓄積したデータの形式や粒度を変換・加工する必要があります。この工程を経なくてはデータ分析の精度を担保できません。データを統合的に管理できればこうした情報の不整合を最小限に抑えられるため、データの品質と分析速度が向上し、DXの実現に向けたデータ活用基盤を整備できます。

顧客満足度やサービスの質が向上する

サイロ化の解消で得られるメリットは、顧客満足度とサービス品質の向上です。先述した例を挙げると、営業部門とカスタマーサポート部門で顧客情報が共有されていない場合、会話や質問の重複によって顧客に不快感を与えかねません。顧客のマスターデータとトランザクションデータを部門横断的に管理できれば、どのチャネルからでも顧客情報を参照できるため、クレーム処理や需要分析を効率的に進められます。また、データ品質の向上によって需要分析の精度が高まれば、競合他社にはない顧客体験価値の創出と顧客満足度の最大化が期待できます。

データドリブン経営につながる

情報共有体制を形成してデータを統合的に管理できれば、ファイルの転送や転記といったノンコア業務を削減しつつ、データ分析の効率化と高精度化を実現できます。これらは、財務分析やマーケティング分析に投入できるリソースを増大させるとともに、自社の財務状況や参入市場の動向などの俯瞰的な分析を可能にする点がメリットです。また、データドリブンな経営体制を整備できれば、勘や経験に依存しないロジカルな経営判断とスピーディーな意思決定が実現し、自社を取り巻く競争環境の変動に柔軟に対応できる可能性が高まります。

データドリブン経営には脱サイロ化が必要不可欠

データドリブン経営は、データを起点とする意思決定を行う経営手法であり、市場の変化が加速する現代のビジネス環境において欠かせない戦略です。データドリブン経営を実現するためには、必要な情報を鮮度・粒度・精度が高い状態で管理しつつ、オンデマンドかつリアルタイムに活用できる体制を整えなくてはなりません。そこで、脱サイロ化を図り、ERPを戦略的に活用する経営基盤を構築する必要があります。

ERPの導入を検討するのであれば、ERP市場でトップシェアを誇るSAP社の製品がおすすめです。SAP社のERPはオンプレミス型やクラウド型といった多様な導入形態に対応しており、企業の組織規模や現状のITインフラに応じた柔軟な運用体制を構築できます。データ駆動型の経営基盤を構築し、DXを実現するためにもSAP社が提供するERPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

サイロ化とは、組織内における特定の部門やシステムが全体から孤立し、部門間連携や情報共有が滞っている状態です。サイロ化は大別すると「組織のサイロ化」と「データ・システムのサイロ化」の2種類に分類されます。サイロ化によって生じる主なデメリットは「業務効率の低下」「データ活用の機会を逃す」「DXの妨げになる」「意思決定の遅滞」「無駄なコストの発生」「サービス品質の低下」などです。

サイロ化が発生する代表的な原因は「縦割りの組織文化」「システム運用の個別化」「独立採算制の経営方式」などです。サイロ化を解消するためには全従業員が目標を共有し、コミュニケーションを推進する組織文化を醸成するとともに、ERPのように情報を一元管理できるツールを導入する必要があります。それにより、業務の効率性やデータ品質を高めつつ、データドリブンな経営体制の構築ができます。

この記事を書いた人
クラウドERP導入ガイド編集部
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