Fit to Standardとは? 価値を最大化するシステム導入方法

 クラウドERP導入ガイド編集部

システム導入の手法として注目される「Fit to Standard」は、標準機能に合わせて業務プロセスを最適化するアプローチで、カスタマイズを抑えることにより導入コストや期間を削減できる点が特徴です。クラウドの普及に伴い、柔軟かつ効率的なシステム導入を実現する手段として採用が進んでいます。本記事では、Fit to Standardの概要や従来手法との違い、採用によるメリットや課題について詳しく解説します。

Fit to Standardとは

Fit to Standardの概要と、Fit&Gapとの違いについて解説します。

Fit to Standardの概要

Fit to Standardは、システムやソフトウェアの導入において、備わっている標準機能にあわせて自社の業務プロセスを調整・変更するアプローチ手法です。不要なカスタマイズを徹底的に排除しながら、システム本来の機能を可能な限り活用します。略してF2Sとも表記され、近年、特に重要視されるようになっています。

Fit&Gapとの違い

以前からあったパッケージ導入における分析手法がFit&Gapです。Fit&Gapは、パッケージの持つ機能とユーザーが求める業務フローや機能を比較し、どのくらい両者が適合し、どのくらい適合していないのかを明らかにします。この分析結果に基づいてシステム選びやアドオン開発を行い、必要に応じてカスタマイズするのが従来は一般的でした。

つまり、Fit to Standardが業務フローをシステムやソフトウェアに合わせるのに対し、Fit&Gapではシステムやソフトウェアのほうを業務フローに合わせるわけです。

Fit to Standardが重要視される理由

一見するとFit&Gapのほうが使い勝手が良いように感じるかもしれません。それにもかかわらず、Fit to Standardのほうが重要視されるようになった背景には、Fit&Gapの限界があります。例えば、以下のような問題です。

・導入コストと期間が増大する
業務プロセスにあわせてカスタマイズやアドオン開発を行った場合、導入コストが増大します。また、導入期間も長期化する傾向にあります。

・導入後アップデートに人材やコストを要する
個別開発した部分に関して、バージョンアップ対応をする際に追加コストが必要になります。ITに精通した人材も確保しなければなりません。

・レガシーシステム化が進む
カスタマイズを過度に行うと、システムが複雑化してアップデートや最新技術の導入が困難になります。その結果、最新技術を取り入れにくい状態に陥ることがあります。クラウド化が進んだ現在、新しい機能やセキュリティ対策を迅速に利用できるFit to Standardの利便性が向上しています。

Fit to Standardを採用することで得られる効果

Fit to Standardの採用によって得られる効果を四つ紹介します。

業務プロセスの最適化・標準化を推進できる

Fit to Standardを単なるシステム導入のアプローチではなく、業務効率化の方法として捉えることが可能です。標準機能に適合させていくことで、従来のシステムや業務フローでは実現が難しかった効率化や最適化を推進できます。

例えば、ERPは多くの企業の経験や業界のベストプラクティスを反映して設計されています。したがって、標準機能に合わせて自社の業務におけるプロセスを再構築すれば、業界基準の優れたプラクティスを自社に取り入れ、業務の非効率な部分を排除することが可能です。そうすることで、部門間や拠点間での業務の統一化が進み、全社的な効率化が実現するでしょう。データの一元管理や可視化が容易になり、経営判断の迅速化にもつながります。

最新のテクノロジーを活用できる

Fit to Standardを採用すれば、常に最新バージョンのソフトウェアを利用できる環境が整います。それにより、最新テクノロジーを活用して、セキュリティを強化したり、業務効率化を図ったりすることが可能になります。たびたび行われる法改正にも、自社で個別に対応する必要がないのは大きなメリットです。

コスト削減・短期間で導入ができる

システム導入の際、ネックになるポイントといえばコストです。しかし、Fit to Standardでは、Fit&Gapで行う詳細な業務分析が必要ありません。これにより、分析コストを削減し、導入プロセスを迅速化できます。また、ERPのデフォルト機能をそのまま使用すれば、アドオン開発が不要になります。開発コストの削減だけでなく、保守コストの低減も可能です。

グローバルな経営に役立つ

Fit to Standardは、グローバル経営の促進に寄与します。なぜなら、世界的によく知られたクラウドベンダーが提供するERPは、さまざまな国の各業界での共通機能を備えているからです。そうしたクラウドERPの活用は、自社の業務フローを国際的な基準に近づけることにつながります。

また、異なる地域での業務連携を円滑に進めるためには、業務工程とシステムの統一が重要です。統一されたシステムを使用すれば、グローバルな規模におけるチーム間での情報共有や協力がしやすくなります。

さらに、グローバル基準のクラウドERPは、各国の法規制に対応した機能を提供しています。複数の国や地域で事業展開する際、こうしたクラウドERPはコンプライアンスリスクの低減に効果的です。

Fit to Standardの課題

Fit to Standardには解決すべき課題もあります。

既存業務の見直しにリソースが必要となる

先述したように、Fit to Standardでは、既存の業務フローをシステムに適合させなければなりません。現行の業務フローを分析し、再設計しなければならないということですが、その過程で以下のような問題が発生する可能性があります。

まずは、人や時間などリソースの問題です。特に既存の業務を大幅に変更する場合は、プロジェクトの長期化や担当者の負担増加を招くことがあります。次に、組織的な影響です。業務の変更は従業員の日常業務や組織構造に影響を与えます。そのため、変更管理や従業員教育の必要性もあらかじめ想定しておきましょう。

Fit to StandardによるERPシステム導入は、長期的な視点で見ればメリットが大きいですが、ある程度の初期負担が想定されます。

従業員に抵抗されるおそれがある

Fit to Standardを導入する際、従業員からの抵抗にあう可能性があります。従業員は、慣れ親しんだ業務フローが一気に変わることへの不安や、新しいシステムへの適応に対する負担感を感じることがあるためです。長年培ってきた業務知識やスキルが不要になる懸念も生じるかもしれません。

新システムに慣れるまでの間、業務効率が一時的に低下して業務が滞り、そのために不安や不満が増すこともあります。これらの不安を解消させるため、次のようなアプローチを実行しましょう。

・経営層からの明確なビジョン提示:変更の必要性と長期的なメリットをよく説明する
・現場の声を反映:現場からのフィードバックを積極的に取り入れたり、実行可能なアクションプランを現場とともに策定したりする
・トレーニングの提供:新システムの操作方法や新しい業務フローに関する十分な研修を実施し、継続的なサポート体制を構築する
・段階的な導入:一気にすべての業務を変更するのではなく、段階的にシステムを導入する
・成功事例の共有:先行して導入した部門や他社の成功事例を共有し、変更への不安を軽減する

Fit to StandardでERPシステム導入を成功させる手順

必要な手順を踏んでいくことは、Fit to StandardによるERPシステム導入を成功させるために重要です。

1.ERP導入の目的を明確化する

Fit to Standardはあくまでも手段であり、ゴールではありません。導入の際には、なぜERPを導入したいのか、目指すゴールはどこにあるのか、などをあらかじめ明確化することが大切です。目的を明確にすることで不必要な機能を排除し、プロジェクトの焦点を定めることができます。

例えば、導入目的としては業務プロセスの改善やコスト削減、顧客サービスの向上などが挙げられます。そうした目的と自社が解決したい課題にERPがどのようにアプローチできるかを整理しましょう。特に、導入後の業務活用を最初から意識することが重要です。

2.ERPについて理解を深める

目的を明確にしたら、導入候補となるERPシステムの標準機能を徹底的に調査し、それぞれの特性をよく理解しましょう。製品によって、ターゲットとなる業界や企業規模などが異なり、それにより機能も異なります。自社に適合するものを選ばないと、コストが余計にかかったり、使い勝手が悪かったりすることもあります。ERPシステムの基本的な仕組みや機能について、自社でも理解を深めておきましょう。

3.自社の業務プロセスを分析する

自社の業務プロセス分析は非常に重要なステップです。以下の点に留意して行いましょう。

・現状の把握
自社の現在の業務プロセスを詳細に分析し、どの部分が標準機能に適合するかを明確にします。この分析により、業務の強みや改善点が浮き彫りになります。

・リソースの確保
業務プロセスの見直しのため、必要なリソースを確保します。従業員が新しいプロセスに適応するためのサポートも必要です。

・ギャップ分析
導入予定のERPシステムと自社の業務とのギャップを特定します。必要な機能が標準機能で賄えない場合、アドオン開発ではなく、ほかのサービスやシステムで補うことも検討しましょう。これにより、カスタマイズを最小限に抑えられます。

4.導入計画を立て実行していく

運用計画には、スケジュール管理やリスク管理が含まれます。適切なスケジュールを設定し、各フェーズの進捗を監視することで、プロジェクトの遅延を防ぎます。また、導入前にテスト運用を行い、システムが正しく機能するか確認しましょう。各機能が期待通りに動作するか、業務フローに適合しているかを検証することも大切です。

システムの円滑な運用を確保するために、新しいシステムの操作方法や新しい業務フローについて従業員をトレーニングします。稼働後も定期的なトレーニングやサポートを提供し、従業員が新しいシステムに適応できるよう支援しましょう。

失敗しないERP導入の方法

ERPをスムーズに導入するために注意すべき点を解説します。

ERP導入を深く理解しているベンダーを選ぶ

ERPについて自社が製品理解を深めるだけでなく、信用できるベンダーを選ぶことも大切です。ベンダーによりスキルや経験、サポート体制が異なるためです。

安易に特定のベンダーに発注するのではなく、複数のベンダーを比較することも重要です。複数のベンダー側に目的や課題、必要な機能、予算やスケジュールなどを記したRFP(提案依頼書)を提示し、自社の要求や必要に合った提案をしたベンダーを選びます。PM(プロジェクトマネージャー)にも会い、知識やスキル、実績、コミュニケーションなどにおいて信頼が置けるかも見極めましょう。

クラウド型のERPを選択する

Fit to Standardで最新の型を使用していくには、社内で運用するオンプレミスよりもクラウド型を選択するのがおすすめです。例えば、以下のようなメリットがあります。

・自動アップデート:クラウド型ERPは定期的に自動でアップデートされ、機能やセキュリティ対策が常に最新の状態に保たれる
・コスト効率:クラウド型であれば初期投資が安くすむだけでなく、ハードウェアの管理やメンテナンスの負担も不要
・セキュリティと信頼性:クラウドプロバイダーは高度なセキュリティ対策が講じられ、データ保護やバックアップも自動で行われる
・スケーラビリティ:ビジネスの成長にあわせてシステムを容易に拡張できるため、新しい機能やサービスの追加が容易

Fit to Standardの成功事例

ここでは、実際の企業による成功事例を2つ紹介します。

マツモトプレシジョン様:データを見える化しDX推進に成功

精密機械部品加工メーカーのマツモトプレシジョンでは、生産、販売、会計の各システムが分断されていたために業務効率の低下を招いていました。例えば、生産現場での購買管理や在庫管理は、表計算ソフトに手入力するなどしていました。

そこで、同社が採用したのがFit to Standardのアプローチです。アドオンが不要なERPシステムを導入したことで各システムのデータが統合され、業務プロセスが標準化されました。それに加え、データの一元管理が実現したことでリアルタイムでの情報共有も可能となり、製造原価を見える化し、利益率の向上を実現しました。手作業によるデータ入力の削減や業務プロセスの効率化を成し遂げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも成功しました。

オプテックス様:一元管理することで業務効率化

産業用センサー事業をグローバルに展開するオプテックスは、拠点ごとにバラバラにシステムが導入・運用されていました。リーマンショックをきっかけに自社の経営課題を見つめなおした同社は、業務とビジネスモデルの両面で改革を実行しました。

具体的には、データをSAP S/4HANAで一元管理することで業務効率化を果たし、経営状況全体をリアルタイムに可視化できる環境を整えました。また、ビジネスモデルではダイレクトマーケティングを導入しました。データの一元化によるグローバルで共通化されたシステム基盤は、この新しいビジネスモデルの実現にも大きく寄与しています。

まとめ

Fit to Standardは、クラウド環境が普及した現代において大きな注目を集めているシステム導入手法です。このアプローチには業務効率化の推進やコスト削減、グローバル経営への対応などのメリットがあります。ERPを導入する際にも、この考え方が主流となってきています。

Fit to Standardによって導入できるクラウド型ERPでおすすめなのが、SAP社の「SAP S/4HANA」です。財務管理、生産管理、販売管理などの機能がひとつのプラットフォーム上で統合されているため、スムーズに各部門間でのデータ連携を行えます。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進したいという方は、ぜひご検討ください。

SAP S/4HANA Cloud Public Edition
(URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/s4hana.html

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