ERPは、会計・人事・生産・物流・販売などの情報を一元管理する統合基幹業務システムです。DXの加速や業務効率化、リモートワークの普及を背景に、日本国内でも導入事例が増えています。本記事では、ERPの種類や導入事例が増えている背景、導入のメリット・デメリットを紹介します。自社への導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
ERPとは?
ERP(Enterprise Resources Planning)は、直訳すると「企業資源計画」という意味のマネジメント手法です。企業の経営資源を一元管理し、効率的な経営の実現を目指します。また、このマネジメント手法を実現させるシステムも同様にERPと呼ばれます。ERPは「統合基幹業務システム」「ERPシステム」などと呼ばれる場合もあります。システムとしてのERPは、リアルタイムでデータを統合し、経営判断に活用できます。
ERPと基幹システムの違い
ERPとよく似たシステムに「基幹システム(基幹業務システム)」がありますが、両者には業務のカバー範囲や導入目的に明確な違いがあります。幅広い業務を複合的にカバーするのがERP、一部の業務のみに特化してカバーするのが基幹システムです。例えば、ERPと、基幹システムの代表例である会計ソフトには以下のような違いがあります。
ERP
・業務範囲:幅広い業務を複合的にカバー
・導入目的:情報の一元管理
会計ソフト
・業務範囲:会計業務のみをカバー
・導入目的:会計業務の効率化
そのほか、人事管理システムや財務管理システム、顧客関係管理(CRM)システムなども基幹システムの例に挙げられます。
ERP導入が増えている背景
ERPが海外から日本に上陸したのは1990年代前半ですが、黎明期に導入に成功した国内企業はごく一部に限られていました。しかし、2010年代になって国内企業向けの製品が登場し始めると、ERPの導入で成果を挙げる企業が多く見られるようになりました。近年、ERP導入が増えている背景には、以下のような要因があります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速
デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)は、IoTやAIなどのデジタル技術によって経営体制を変革させ、市場での競争力を高めていく考え方のことです。ビジネス環境の変化に対応するために多くの企業がDX推進に努めているものの、本格的な実現には至っていないのが現状です。特に、部門ごとのデータ分断(サイロ化)が課題です。
DXを推進するうえでのこうした課題を解決できるのがERPです。ERPでは、部門ごとに分かれているシステムをまとめ、あらゆる業務のデータを一元管理します。企業の基幹業務を統合的に管理するERPは、DX推進に不可欠なシステムとして、多くの企業で導入されています。
クラウドERPの普及
従来主流だったオンプレミス方式から、クラウド方式に移行するケースが増えているのも、ERPの導入が進んでいる理由のひとつです。ERP黎明期に主流だったオンプレミス方式は、導入コストの高さが課題でした。しかし、長年にわたる開発投資や改良によって現在ではクラウド方式が普及し、コスト面やスピード面で導入を検討しやすい環境が整っています。
リモートワークの普及
新型コロナウイルス感染症の拡大や、働き方に対する考え方の変化をきっかけに、オンライン環境で業務を完結させるニーズが高まりました。リモートワークと呼ばれる働き方がその代表例です。リモートワークを推進するには、社外でもオフィスと同じように作業できる環境が必要になるため、業務の可視化・管理が可能なERPの導入が促進されています。
特にニーズが高まっているのは、先に紹介したクラウド方式のERPです。クラウド方式は従来のERPとは異なり、インターネット環境があれば社外のPCやタブレットからでもアクセスできます。オンライン環境での業務と非常に相性が良いため、リモートワークを普及させたい企業を中心に導入事例が増えています。
データドリブン経営の必要性
データドリブン経営への注目が高まっていることも、ERPの導入増加に大きく影響しています。データドリブン経営とは、勘や経験ではなく、具体的なデータに基づいて意思決定をする手法のことです。
オンラインとオフラインの両方で顧客接点を最適化するために、企業側にも具体的なデータに基づいて戦略を立てることが求められており、それに伴ってニーズを高めているのがERPです。ERPの導入によってデータの一元管理と可視化がしやすくなり、経営層はスピーディーで質の高い意思決定を下せるようになります。
人手不足の対策と業務自動化の推進
少子高齢化を背景に、人手不足が多くの業界・企業にとっての共通課題となっています。人手不足解消に向けた対策としては、主に「採用面の強化(人員そのものを増やす)」と「業務を効率化する(限られた人員で業務をこなす)」の2つの方法が考えられます。そのうちの「業務を効率化する」方法に役立つのがERPです。
ERPの導入によって業務の自動化とスムーズな情報共有が可能になるため、手作業で管理する負担や、情報を検索する手間を大幅に削減できます。このような背景から、慢性的な人手不足に悩む業界・企業でERPの導入事例が増えています。
ERPの種類
ERPは、業務の対象範囲によって「統合型」「個別最適型」「開発型」の3種類に分けられます。経営に関わるあらゆる業務を統合的に管理するのが「統合型」、必要な機能を自由に組み合わせるのが「個別最適型」、業務ごとの開発を前提とするのが「開発型」です。各ERPには以下のような特徴があります。
統合型ERP
統合型は、全事業とグループ会社をひとつのシステムに統合し、あらゆる業務をまとめて管理するERPです。横断的な一貫したビジネスシナリオの構築が可能になることから、世界中の国々で豊富な導入実績があります。SAP社やオラクル社、マイクロソフト社などの世界的ソフトウェア会社が提供する製品が多く、グローバルビジネスにも対応可能です。
また、システムを連携させることで、グループ会社や部門間での情報共有をスムーズに行えるメリットもあります。すべてのシステムを連携させて体制を構築するには多くの作業と時間が必要ですが、導入に成功すれば業務効率化やスピーディーな意思決定が可能になります。
個別最適型ERP
個別最適型は、企業ごと、モジュールごとに導入可能なERPです。マネーフォワードや大塚商会、オービックなど、日本製のERPに多く見られるタイプです。例えば無駄な工程が多い会計管理のみにモジュールを導入するなど、自社のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズしやすいメリットがあります。不要なモジュールを省けるぶん、導入・運用コストを抑制しやすいのも利点です。
ただし、統合型と比較すると、運用やメンテナンスに手間がかかりやすい点には注意が必要です。特に、モジュールごとの複数ベンダー利用では連携が難しい場合があります。また、紹介コンサルタントや認定パートナーも比較的少なめです。
開発型ERP
開発型は、業務要件ごとのシステム開発を前提とするERPです。パラメータの柔軟性が限られているため、会計業務のみ、CRMのみなど、一部の業務に特化したモジュールが実装されるケースが多い傾向にあります。
開発型は特定のニーズに応える製品を選びやすい一方で、紹介コンサルタントや認定パートナーが少ない点に注意が必要です。導入にあたっては入念な要件定義や検証が必要になるため、自社独自のシステムをつくり上げる豊富な予算がある場合や、専門知識を有する人材を十分に確保できる場合は選択肢となります。
ERPの導入方式
ERPは導入方式によっても種類が分けられます。社内にサーバーを設置して運用するのが「オンプレミス方式」、インターネット経由で運用するのが「クラウド方式」です。ERP黎明期はオンプレミス方式が一般的でしたが、導入や運用の手軽さを背景に、現在はクラウド方式が主流になっています。それぞれの特徴は以下の通りです。
オンプレミス方式
オンプレミス方式は、社内にサーバーを設置して独自のシステムを構築し、運用するタイプのERPです。オンプレミス方式には次のような特徴があります。
オンプレミス方式の特徴
・カスタマイズの自由度が高い
・既存システムと連携させやすい
・サーバーの保守運用を自社で行う必要がある
従来、オンプレミス方式はカスタマイズの自由度の高さや、速度面で優位性があると考えられていました。一方、デメリットとしては、サーバーの保守運用を自社で行う必要がある(一部ベンダーにサポートしてもらう方法もある)点や、災害などの物理的破損に弱い点が挙げられます。アップデートの早さやBCP(事業継続計画)の観点からも、現在はオンプレミス方式よりクラウド方式を採用するケースが増えています。
クラウド方式
クラウド方式は、ベンダーが開発したシステムをインターネット経由で利用するタイプのERPです。事業者側のサーバーで稼働するソフトウェアをユーザーが利用する仕組みは、SaaS(Software as a Service)とも呼ばれています。この際、ベンダー側で稼働しているシステムをそのまま利用できるため、社内にサーバーをわざわざ設置する必要がなく、通信環境さえ整えればすぐに利用できる点が魅力です。クラウド方式には次のような特徴があります。
クラウド方式の特徴
・導入のハードルが低い
・場所を選ばずに利用できる(リモートワークに向いている)
・サーバーの保守運用をベンダーにサポートしてもらえる
・アップデートの手間がかからない
・災害やサイバー攻撃の被害を受けにくい
システムが稼働しているサーバーは自社とは異なる場所にあるため、災害やサイバー攻撃の被害を受けにくいのがクラウド方式の特徴です。昨今のサイバー攻撃の巧妙さを鑑みると、自社内のセキュリティ強化に限界があるオンプレミス方式に比べ、セキュリティの面でもクラウド方式のほうが優れています。すぐにアップデートできる利点もあるため、今後ERPの導入を検討する場合はクラウド方式を選ぶのが無難です。
統合型ERPの主な機能
会計や販売のみに特化した基幹システムとは異なり、幅広い業務をカバーしているのが統合型ERPの特徴です。ここでは、統合型ERPに搭載されている主な機能を6つピックアップして紹介します。
会計管理機能
会計管理機能は、企業全体の売上やコスト、利益などの情報を収集するための機能です。財務や債務を把握し、企業の正確な経営状況を明らかにする役割があります。例えば、財務会計を行う際には、利害関係者(ステークホルダー)に向けて経営状況を報告するための財務諸表を作成できます。また、管理会計の際には部門ごとの売上やコスト、利益などの記録・分析が可能です。
会計管理機能のデータは、以降で解説する各管理機能とも連携・共有されています。そのため、企業の経営状況をリアルタイムで把握可能です。
販売管理機能
販売管理機能は、商品の仕入価格や仕入状況、受注残、在庫、出荷情報などの情報を把握するための機能です。これにより見積管理・受注管理・売上管理・請求管理などの業務効率化が可能になります。情報が分散した体制では、担当部門にわざわざ問い合わせて確認しなければなりません。そうした部門間でのやり取りを効率化し、仕入れから出荷までの流れをスムーズにさせるのが販売管理機能の役割です。例えば、受注残や在庫データをもとに、生産管理機能と連携して必要な生産数を調整すれば、過剰な生産を避けて全体的な効率化が図れます。
生産管理機能
生産管理機能は、生産計画の作成や品質管理に役立つ機能です。材料の調達から製造、出荷までの全般的な管理をERPで行えます。生産計画の作成や製造工程の管理、品質管理などの業務を効率化可能です。
生産管理機能を活用した生産効率の向上は、コスト削減や顧客満足度の向上といったメリットにつながります。例えば、出荷手続きを効率化できれば、製品が出来上がってから顧客のもとに届くまでの所要時間を削減できます。
購買管理機能
購買管理機能は材料調達に関わる機能です。生産計画に基づいて発注を行う際、調達する材料の種類・数量を管理し、発注不足や発注過多を防ぐ役割があります。ERPの購買管理機能を活用すれば、発注処理や発注点管理、入荷処理、経費購買処理などの業務効率化が可能です。
購買管理に関わるデータの可視化が不十分な場合、材料の調達目的や調達先、数量などが不透明になってしまうケースがあります。そのようなときに購買管理機能によってデータを可視化すると、不要な購買コストを削減できます。
営業管理機能
営業管理機能は顧客情報を管理し、マーケティング戦略の立案や営業活動の方向決めに生かすための機能です。顧客の性別や年齢などの属性データを営業活動と連携させることで、今後の需要予測やサービスの改善に役立てられます。
営業管理は、生産管理や購買管理との関連性が高い業務です。例えば、製品完成に至るまでに長い期間を要する製造業では、営業の受注見込案件を考慮しながら生産計画を立てる必要があります。他の機能と連携して売上や需要予測の精度を上げることで、余剰生産や余剰在庫のリスクを軽減可能です。
人事・給与管理機能
従業員の基本的な情報や勤怠情報、給与情報などを管理するのが人事・給与管理機能です。給与の支払いによる資産の変動はもちろん、人事データをリアルタイムで把握する機能も搭載されています。また、自社で働く従業員だけでなく、入社を志望する応募者のデータも管理できるのが特徴です。
従業員や応募者に関するデータは、企業の組織戦略や適切な人員配置に役立ちます。例えば、勤怠管理によって残業の実態をリアルタイムで把握すれば、長時間労働の是正や従業員の健康維持のための取り組みにつなげられます。
ERPを導入するメリット
ERPの導入は、業務の効率化以外にも数多くのメリットがあります。具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。
・業務プロセスの改善
・業務の効率化
・システムの運用コスト削減
・経営リスクの低減
・内部統制の強化
・データドリブンな経営の実現
業務プロセスの改善につながる
ERPではデータ連携と業務の自動化が可能です。各部門のデータの連携が、業務プロセスの見直し・改善につながります。従来、決算時には部門ごとに管理しているデータをつなぎ合わせ、整合性を確認する手間がありました。そうした確認や入力の手間を省き、業務プロセスの改善につなげられるのがERP導入のメリットです。また、スプレッドシートを活用して集計を行っている場合、データの重複やエラー、遅延といった問題の発生が考えられます。
業務の効率化につながる
部門ごとに独自のシステムで管理している場合は、情報の確認に手間がかかります。一方、ERPではさまざまな部門の情報を一元管理し、部門間の確認の手間を大幅に削減できるため、業務の効率化へとつなげられる点にメリットがあります。
例えば、急な注文が入った場合、従来は在庫を確認し、生産ラインにスケジュール変更を依頼する業務が発生していました。しかし、ERPによって部門ごとに独立したシステムを統合的に取り扱うようになれば、製造の進捗や在庫の状況をリアルタイムで把握できるため、確認作業やスケジュール変更の連絡が不要になります。
システムの運用コスト削減につながる
経理部では会計システム、営業部では販売管理システムというように、別々で稼働しているシステムをERPによって一元化できます。そうして個別にかかっていた運用保守費などのコストをERPに集中させることで、全体的なコストの削減を実現できるのが大きなメリットです。
また、システムを個別に管理するために割かれていたリソースの配分が最適化され、保守運用にかかる人件費の削減につながるメリットもあります。特にクラウド方式のERPの場合は、システムの保守運用とメンテナンスをベンダー側に任せられるため、大幅に人件費を削減できます。
経営リスクの低減につながる
ERPの導入は経営リスクの低減にも役立ちます。個別にシステムを稼働させる場合、システムごとにセキュリティ対策が必要なうえ、その強度にもバラつきがある点が課題です。ひとつのシステムで脆弱性を突かれるとそこからサイバー攻撃の範囲が広がり、他のシステムにも影響が生じかねません。その点、ERPは部門ごとに独立したシステムを統合化し、包括的なセキュリティ対策を行うことが可能です。
また、オフィスで災害や事故が起きたとしても、クラウド方式の統合ERPであればシステムの基幹部分には被害が及ばないので、データの損失を防ぎ、事業再開を早められます。BCP対策の観点でも、ERPにシステムを集約して経営リスクを低減するのは効果的な手段です。
内部統制の強化につながる
部門ごとに情報が分散した状態では、経営層の目が届かない場所で情報漏えいや改ざんが発生するリスクが高くなります。他方、ERPではすべてのデータを連携して一元管理するため、そうした不正リスクを低減できる点がメリットです。従業員のコンプライアンス違反を把握しやすくなり、内部統制(ガバナンス)の強化にもつながります。
また、統合型ERPには、従業員の勤怠状況を可視化・管理する機能が搭載されています。リモートワークやフレックスタイム制などの新しい働き方の普及によって、煩雑化している勤怠管理も、ERPを活用することで従業員一人ひとりの就業状況と労働時間を正確に把握可能です。これにより、違法な長時間労働なども防止できて、内部統制の目的のひとつであるコンプライアンス強化につなげられます。
データドリブンな経営を実現できる
ERPで情報を一元管理するため、経営判断に必要なデータをすべて「見える化」できます。勘や経験に頼った判断ではなく、客観的なリアルタイムのデータに基づくデータドリブンな経営を実現できる点がメリットです。
従来のように部門ごとに独立した体制では、経営判断を下す際に各部門からあがってくる報告を待つ必要がありました。企業規模によっては、経営判断に必要なデータをそろえるだけでも多大な時間と手間がかかってしまいます。その点、ERPでは情報をリアルタイムで可視化できるため、必要な情報をスムーズに収集でき、迅速な経営判断が可能になります。
ERPを導入するデメリット
多くの導入メリットがあるERPですが、その裏には少なからずデメリットもあります。それは、以下の点に関するコストがかかることです。
・導入
・業務プロセスの変更
・ERPで運用するデータの選定・整理
・従業員に対する運用・リテラシー教育
導入コストがかかる
既存システムからERPへと刷新するには、それなりの導入コストがかかります。オンプレミス方式とクラウド方式のERP導入にかかる主なコストは以下の通りです。
・オンプレミス方式:サーバー構築費、システム開発費、ライセンス料、保守運用費
・クラウド方式:ライセンス料、月額利用料
自社にサーバーを構築するぶん、オンプレミス方式はサーバー構築費やシステム開発費で導入コストが膨らみやすい傾向にあります。クラウド方式の場合も一定の導入コストはかかるものの、必要なライセンス数を吟味して導入すればコストは抑えられます。導入コストをできる限り抑えたい場合は、クラウド方式を選ぶのが無難です。
業務プロセスの変更が必要になる
ERPを導入する際は、搭載されている機能に対して自社の業務プロセスを最適化させていく「Fit To Standard」のアプローチ手法が基本となってきています。場合によっては、既存のシステムやツールを廃止したり、紙媒体で行っていた業務を電子化したりする変更が必要になる可能性があります。
業務プロセスの変更は、長期的な視点では効率化につながりますが、短期的な視点では不慣れな作業の発生などのデメリットが生じます。ERPの意義を現場が理解していないと不満が生じがちになるため、導入の際は業務プロセスの変更による影響を十分に考慮しましょう。
ERPで運用するデータの選定・整理が必要になる
これまで部門ごとに別々のシステムを運用していた場合、統合時にはデータを統一しなくてはなりません。データを一元化できる点がERPの魅力ですが、そのためには散在しているデータを選定して移行する作業が必要です。選定以外にも、データ形式の整理や入力ルールの策定などで時間と手間がかかります。
ただし、先にお伝えした通り、ERPの導入では「Fit To Standard」のアプローチ手法が基本となってきています。古くなっている業務プロセスを一新できるという観点からすると、データの選定・整理が必要になることは必ずしもデメリットだけとはいえません。
従業員に対する運用・リテラシー教育が必要になる
ERPに企業のすべてのデータを集約するため、万が一情報漏えいした場合には大きな問題に発展します。そこで、ERP導入にあたり、従業員に対して「運用」に関する教育と、「セキュリティ」に関する教育が必要になります。ERPを安全に運用していくために、従業員への教育に金銭的コストと時間的コストをかけなければならない点がデメリットです。
なお、ERPの中には、従業員に対する教育をサポートしてもらえる製品もあります。自社内だけで教育体制を整えるのが難しい場合は、サポートの充実度にも注目して製品を選ぶのがおすすめです。
ERPの選定時に押さえておきたい3つのポイント
先に述べた通り、ERPは「統合型・個別最適型・開発型」「オンプレミス方式・クラウド方式」によって特徴が大きく異なります。各ベンダーが提供する製品にも違いがあるため、選定の際は導入目的や機能などを入念に確認することが重要です。選定時に特に押さえておきたいポイントは以下の3点です。
1.自社の課題解決につながる機能を備えているか
ERPは導入して終わりではなく、自社の課題を解決できたときに、はじめて成果が出たと評価できます。そのため、まずは自社が抱える課題を明確にし、解決につながる機能を備えたERPを選定していくことが重要です。自社がどのような課題意識を持っており、どう克服したいのかという基本的な部分を把握しつつ、さらにERPに求める機能を精査していく必要があります。
例えば、リモートワーク環境を整備したい場合、社外からアクセス可能なクラウド方式のERPが有力な候補になります。「どのような課題を解決したいのか」はもちろん、「オンプレミス方式とクラウド方式のどちらが自社に合うか」も検討すべきポイントです。また、ERPの中には、AIによる文章生成機能やデータ分析機能が搭載され、学習によって自社業務への適合性を高めていく製品があります。汎用的な機能だけでなく、AIのような最新機能の有無もERPの選定時に見ておきたいポイントです。
2.同業種・同規模への導入事例を持っているか
ERPの中には特定の業種向けの製品があります。例えば、材料調達から最終製品に至るまでの管理が複雑になりやすい「食品・化学業界向け」の製品や、「製造業」のビジネスモデルに対応しやすい製品が代表的です。製品ごとに得意分野が異なるため、自社と同業種の導入事例を確認しながら選定することが重要になります。
また、ERPは大企業向け・中堅中小企業向け・小規模向けなど、企業規模別の製品があります。対象とする企業規模によって機能に違いがあるため、自社のサイズ感にフィットしたERPを選ぶことが重要です。自社で必要としない機能がいくら備わっていても仕方がありません。
3.ERPの設計思想に共感できるか
提供元のベンダーによってERPの設計思想に違いがあります。ERPの種類でも触れた通り、統合型や個別最適化型などさまざまな種類があるため、設計思想と自社のニーズを照らし合わせながら選定することが重要です。例えば、データドリブン経営や自動化による業務効率化、内部統制の管理などを実現したい場合は、統合型ERPが有力な選択肢になります。
また、「Fit&Gap」と「Fit To Standard」のどちらを推奨しているかも、ベンダーによって違いが見られます。Fit&Gapは、自社の業務に合わせて必要なアドオンをERPに追加していく手法のことです。一方、Fit To Standardでは、ERPのシステムの側に業務を合わせていく、逆のアプローチをとります。カスタマイズを最小限に抑えることで、ERP本来の強みを発揮しやすいのがFit To Standardのメリットです。
設計思想はベンダーによって異なりますが、例えばドイツの大手ソフトウェア会社・SAP社は「Fit To Standard」での導入を推奨しています。ERP導入の際は、こうしたERPの設計思想に共感できるかが重要です。
ERPの導入の流れ
ERPの導入は、次の3つのフェーズに大きく分けられます。
1.検討フェーズ:企画検討、要件定義
2.導入フェーズ:設計、開発、テスト
3.運用フェーズ:本番稼働、運用、保守
ERP導入のような全社を巻き込む大規模プロジェクトでは、規模の大きさに比例し、下流工程に行くほど所要時間や関わる人数が多くなります。そのため、上流工程の企画や要件定義が曖昧だと下流工程にしわ寄せが行き、挽回が限りなく困難になってしまいます。ERP導入の際は、上流工程にあたる検討フェーズを特に慎重に進めることが重要です。
はじめてのERPなら「GROW with SAP」
はじめてのERP導入におすすめのソリューションが、2023年からSAP社が提供開始した「GROW with SAP」です。GROW with SAPはERP単体ではなく、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、他の製品の機能や導入支援ツールなどを組み合わせたパッケージサービスで、以下のような特徴があります。
GROW with SAPの主な特徴
・クラウド方式のERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」がベース
・SAP Business Technology Platformの一部機能が付属
・導入支援サービスを提供
・専門家との交流場やeラーニングを利用できる
一部の製品では会計業務のみでERPを名乗っているケースも見られますが、SAP社のERPではほぼすべての業務領域を網羅しています。また、SAP社のERPは大企業での導入が多いイメージを持たれがちですが、実は導入企業の8割を中堅中小企業が占めています。中堅中小企業に向けに、スピーディーかつ確実な経営革新ができるよう設計されているのがSAP社のERPの特徴です。このほか、コミュニティでエキスパートからのアドバイスを受けられる機会があるのも、本サービスがはじめてのERP導入に向く理由のひとつです。
関連記事:GROW with SAP
(URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/grow.html)
まとめ
DXの推進やクラウド方式の登場、リモートワークの普及などを背景に、ERPの導入事例が増えています。会計・人事・生産・物流・販売などの情報を一元的に管理することで、業務効率化による人手不足の解消や、スピーディーな経営判断につながるのがERPを導入する大きなメリットです。
ただ、ERPには多様な種類と製品があるだけに、自社に合うものを見つけるのは簡単ではありません。自社が抱える課題をあらかじめ明確にし、業種や企業規模に沿った製品を選ぶことが成功の秘訣です。