ERPは、会計・人事・生産・物流・販売などのデータを一元管理する統合基幹業務システムです。業務効率化やスピーディーな意思決定を可能にする一方で、さまざまな製品があるため、導入の際はいかに自社に適したものを選ぶかが重要です。本記事では、導入のメリットや選定ポイント、中堅中小企業向けのERPを紹介します。
中堅中小企業向けERPの比較10選
ERPには、「オンプレミス型やクラウド型」「統合型・個別最適型・開発型」などのさまざまな種類があります。種類によって特徴が異なるため、導入の際は自社のニーズに合わせて選ぶことが大切です。ここでは、中堅中小企業向けのERPを10製品ピックアップして紹介します。
SAP S/4HANA
《特徴》
・SAP社の統合型ERP
・オンプレミス型とクラウド型の両方に対応
・2027年問題を解決可能
「SAP S/4HANA」は、ドイツの大手ソフトウェア会社・SAP社が提供する統合型ERPです。会計・人事・生産・物流・販売などの幅広い機能が搭載されており、世界的にも高い信頼を得ています。オンプレミス型とクラウド型のどちらにも対応しており、クラウドはさらに「パブリッククラウド版」と「プライベートクラウド版」に分けられます。SAP社による構築環境を複数の企業で共用するのがパブリッククラウド版、SAP社のクラウド基盤上にユーザーが自社環境を構築して利用するのがプライベートクラウド版です。
2027年をもって、SAP社のERPである「SAP ERP 6.0」の標準サポートが終了するため、どう対応するかは多くの企業にとって喫緊の課題となっています。この「2027年問題」と呼ばれるSAPのサポートに関する問題も、SAP S/4HANAを導入すれば引き続きサポートを受けられるので、解消されます。
参照元:SAP S/4HANA Cloud Public Edition
URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/s4hana.html
SAP Business ByDesign
《特徴》
・SAP社のSaaS型クラウドERP
・初期導入コストを抑えやすい
・160か国以上での導入実績
「SAP Business ByDesign」も同じくSAP社が提供するSaaS型クラウドERPです。中堅中小企業やグローバル企業を主なターゲットにしており、従来のオンプレミス型に比べて初期導入コストを抑えつつ、短期間で導入できる点がメリットです。会計・財務・顧客管理・人事などの幅広い業務に関わる機能を備えているほか、40か国以上の国別要件と28言語にも対応しています。
2013年11月から日本語版の提供がスタートし、2017年4月からは中堅中小企業への販売が強化されています。日本の中堅製薬株式会社にも採用されるなど、近年日本企業での導入事例が増えているERPです。
参照元:SAP Business ByDesign
URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/business-bydesign.html
SAP Business One
《特徴》
・SAP社が提供する中堅中小企業向けのERP
・オンプレミス型とクラウド型の両方に対応
・一般的な基幹システムを網羅
「SAP Business One」は中堅中小企業向けのERPです。同じくSAP社が提供する「SAP S/4HANA」は高性能かつ複雑な機能を搭載しているのに対し、こちらは中堅中小企業に必要な機能に絞った構成となっています。高いカスタマイズ性を備えているほか、会計プロセスの自動化や財務レポート作成などの一般的な基幹システムを網羅しています。また、企業の成長とともに、SAP HANAプラットフォームへのスムーズな移行も可能です。最初の導入としておすすめのERPです。
参照元:SAP Business One
URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/business-one.html)
Oracle Netsuite
《特徴》
・オラクル社が提供するクラウド型ERP
・27以上の言語と190以上の通貨に対応
・IPO(新規株式公開)を目指すスタートアップ企業にもおすすめ
「NetSuite(ネットスイート)」は、アメリカの大手ソフトウェア会社・オラクル社が提供するクラウド型ERPです。複数の子会社や事業部門、法人を管理できるカスタマイズ性の高さが魅力で、200以上の国での導入実績があります。対応言語は27以上、通貨は190以上と、グローバルビジネスに活用しやすい点が特徴です。
また、柔軟なシステム設計で事業拡大や分社化に対応しやすいことから、NetSuiteはIPO(新規株式公開)にも豊富な支援実績があります。そのため、グローバルに事業を展開する中堅中小企業はもちろん、IPOを目指すスタートアップ企業にもおすすめのERPです。
参照元:NetSuite Enterprise Resource Planning(ERP)System
URL:https://www.netsuite.co.jp/products/erp.shtml
Dynamics 365 Business Central
《特徴》
・マイクロソフト社が提供するクラウド型ERP
・同社のツールやアプリとの連携が容易
・世界各国の商習慣に対応
・47か国語に対応
「Dynamics 365 Business Central」は、アメリカの大手ソフトウェア会社・マイクロソフト社が提供するクラウド型ERPです。会計や販売管理、顧客管理、仕入管理などを統合的に管理し、業務の効率化とスピーディーな意思決定を実現できます。対応言語は47か国と、グローバルビジネスに生かしやすい点が魅力的です。
また、「Outlook」「Excel」「Teams」など、他のマイクロソフト製品と連携しやすいという特徴もあります。アプリケーション同士を連携させれば、業務ごとにわざわざ切り替える必要がないため、情報へのアクセスや共同作業が容易になります。
参照元:Dynamics 365 Business Central
URL:https://www.microsoft.com/ja-jp/dynamics-365/products/business-central
マネーフォワード クラウド ERP
《特徴》
・マネーフォワード社が提供する日本製のクラウド型ERP
・会計関連の基幹システムに強み
・必要なシステムひとつからでも導入可能
「マネーフォワード クラウド ERP」は、資産管理ツールや会計ソフトの開発会社として知られる、マネーフォワードが提供する日本製のクラウド型ERPです。会計関連の基幹システムに対して特に強みがあり、さらに債務支払や人事管理などの機能も併せて利用できます。
業務の対象範囲別では、個別最適型(コンポーネント型)ERPに分類されます。必要なシステムひとつからでも導入できるため、より課題の多い業務から段階的に導入したり、企業の成長に合わせて機能を追加したりと、柔軟に利用できる点がメリットです。
参照元:Money Forward クラウド ERP
URL:https://biz.moneyforward.com/erp/
SMILE V Air
《特徴》
・大塚商会が提供する日本製のクラウド型ERP
・必要なシステムひとつからでも導入できる
・マルチデバイスに対応
「SMILE V Air(スマイルブイエアー)」は、日本のIT企業である大塚商会が提供するクラウド型ERPです。「販売管理」「会計管理」「人事給与管理」「見積」の4つの業務を効率化するシステムが搭載されています。各システムは、ひとつからでも導入可能です。マルチデバイスに対応しているため、インターネット環境があれば外出先からでもPCやタブレットでアクセスできます。
また、1ライセンスかつ単独利用限定の「ライトパック」や、すべての機能を一括導入するビッグバン型の「プレミアム」など、複数のプランが用意されているのも特徴です。多様なプランの中から、自社のニーズに合うものを柔軟に選択できます。
参照元:SMILE V Air
https://www.otsuka-shokai.co.jp/erpnavi/smile/smilev/smile-v-air/
GRANDIT
《特徴》
・GRANDIT社が提供する日本製のクラウド型ERP
・基幹業務を網羅
・高いカスタマイズ性
「GRANDIT(グランディット)」は、GRANDIT株式会社が提供する日本製のクラウド型ERPです。ユーザー系SI企業を中心としたコンソーシアム(共同事業体)を作り、各社の技術とノウハウを結集させて開発されたという背景があります。
基幹業務を網羅しているほか、ワークフローやEC、BIのような機能も搭載されています。さまざまな機能を利用できるオールインワン型のERPですが、必要な機能を自由に組み合わせることも可能です。
参照元:GRANDITとは
URL:https://www.grandit.jp/about/
OBIC7
《特徴》
・オービック社が提供する日本製のERP
・オンプレミス型とクラウド型の両方に対応
・カスタマイズ可能な個別最適型
「OBIC7」は株式会社オービックが提供する日本製のERPです。会計を中心に、人事・給与・就業などの幅広い業務システムから、自社に必要なものをカスタマイズできます。必要な機能だけに絞れるためコストを抑えやすく、スモールスタートに適しています。
基幹業務システムに加え、業種別テンプレートが用意されているのもOBIC7の特徴です。業界や業種の特性を反映したテンプレートを利用し、効率的に情報を管理できます。
参照元:クラウドサービス「OBIC7 クラウドソリューション」
URL:https://www.obic.co.jp/erp_solution/cloud/
GLOVIA iZ
《特徴》
・富士通が提供する日本製のERP
・必要な機能を段階的に導入可能
・オンプレミス型とクラウド型の両方に対応
「GLOVIA iZ(グロービアアイズ)」は、PC開発で有名な富士通が提供するERPです。会計・販売・人事給与・生産の4種類の基幹業務と、経営層の意思決定をサポートするシステムを搭載しています。導入の際は、すべての機能を一括導入する「ビッグバン型」と、段階的に機能を導入していく「ベストプラクティス型」の2種類のタイプから選択可能です。
また、オンプレミス型とクラウド型のいずれにも対応しています。例えば、独自の業務が多い販売はオンプレミス型、変化が多い業務や業務の拡大はクラウド型というように、企業のニーズに合わせて使い分けが可能です。
参照元:FUJITSU Enterprise Application GLOVIA iZ
URL:https://www.fujitsu.com/jp/services/application-services/enterprise-applications/glovia/glovia-iz/
ERPシステムとは
ERPを十全に活用するには、基本的な機能や何に役立てられるのかを理解しておくことが必要です。ここではERPの基本や導入のメリットを詳しく解説します。
ERPの基本
ERP(Enterprise Resources Planning)は、企業のさまざまな部門を統合し、業務効率化やスピーディーな意思決定を可能にする統合基幹業務システムです。具体的には以下のような機能が搭載されています。
・人事、給与管理
・生産管理
・会計管理
・販売管理
・購買管理
・営業管理
企業や事業の規模が大きくなるほど基幹業務は複雑化し、各部門の負担が大きくなります。データの一元管理によって業務を効率的にするほか、部門間の情報共有もスムーズにするのがERPの役割です。
ERP導入のメリット
ERPの導入には、業務効率化の実現以外にも、以下のような数多くのメリットがあります。
・データを一元管理できる
・メンテナンスや更新を一元化できる
・意思決定のスピードと精度の向上を期待できる
・リスクやコンプライアンスのマネジメントが容易になる
部門間の情報共有がスムーズになることで、意思決定のスピードと精度の向上を期待できます。経営層への大きな助けとなり、企業全体の成長へとつながりやすくなる点がメリットです。また、情報の可視化・見える化によって、リスクやコンプライアンスのマネジメントが容易になるメリットもあります。
中堅中小企業にとってERP導入が重要とされている理由
中堅中小企業では、便利なように部門ごとに独自のシステムを導入しているケースがあります。しかし、それでは部門間での情報のやり取りが難しくなるうえ、個々のシステムの維持も高コストになりかねません。そこでERPを導入すれば基盤が共通になり、データやルールを集約できる点がメリットのひとつです。
また、労働人口の減少を背景に、多くの中堅中小企業では「従業員の生産性向上」が共通の課題となっています。全体の業務を効率化して生産性を高めるために、中堅中小企業にとってERP導入が重要とされています。
経営層の視点では、意思決定のスピードや精度の向上を期待できる点がメリットです。業務効率化という短期的なメリットだけでなく、長期的に見てもERP導入は中堅中小企業にとって大きな恩恵があります。
「ERP導入は難しい」「大変」というイメージを持っている中堅中小企業は少なくありませんが、選定ポイントをよく理解すれば導入をスムーズに進められます。以下に紹介するERPの種類別の特徴と選定ポイントを参考に、導入を検討してみてください。
ERP種類別の比較
ERPは、オンライン上で利用する「クラウド型」と、社内にサーバーを設置して運用する「オンプレミス型」に分けられます。通信インフラが発達していなかったERP黎明期はオンプレミス型が主流でしたが、現在はクラウド型が一般的になりつつあります。どちらにもメリットとデメリットがあるため、特徴をよく理解して自社に合うタイプを選ぶことが大切です。
クラウド型
クラウド型は、ベンダーが提供するサーバーにシステムをインストールして利用するタイプのERPです。社内にサーバーやネットワークをわざわざ構築する必要がなく、通信環境さえ整えればすぐに利用できる点が特徴です。クラウド型には以下のようなメリットがあります。
・初期コストが低い傾向にある
・導入のハードルが低い
・保守と運用をベンダーにサポートしてもらえる
・場所を選ばずに利用できる(テレワークにも活用可能)
・アップデートの手間がかからない
導入や運用のしやすさにメリットがある一方で、大部分をベンダーに任せることになるため、自社に合わせたカスタマイズは難しい傾向にあります。そのため、クラウド型のERPを導入する場合は、システムの拡張性を事前に確認し、信用できるベンダーを選ぶことが大切です。
オンプレミス型
オンプレミス型は、社内にサーバーを設置して運用するタイプのERPです。買い切り型のシステムを自社で保有するため、継続的なコストがかからない点に特徴があります。オンプレミス型のメリットは以下の通りです。
・継続的なコストがかからない
・カスタマイズの自由度が高い
・既存システムと連携させやすい
・セキュリティを社内で強化できる
クラウド型に比べてカスタマイズの自由度が高いため、自社でシステムを保守運用するための体制が整っている企業に向いています。その反面、導入時に初期コストと時間がかかる点や、専門知識を持つ人材が必要になる点に注意が必要です。
ERP対象範囲別の比較
ERPは、対象とする業務の範囲によって3つのタイプに分けられます。あらゆる業務をカバーするのが「統合型」、必要な機能を組み合わせて運用するのが「個別最適型」、業務要件ごとの開発を前提としているのが「開発型」です。3つのタイプには以下のような特徴があります。
統合型ERP
統合型ERPは、会計管理や人事・給与管理などのあらゆる業務を統一して管理するタイプです。ERPでまとめて管理することで、情報の重複を減らせるというメリットがあります。その結果、信頼できるデータを集めやすくなり、業務効率化の実現が可能です。
また、部門間での情報共有がスムーズになるのも統合型ERPの特徴です。部門ごとのシステムでわざわざ確認する手間が省け、企業全体の経営判断をスピーディーに行えます。
個別最適型ERP
個別最適型ERPは、必要なシステム・機能を選んで組み合わせるタイプです。無駄が発生している会計管理のみシステムを導入するなど、自社のニーズに合わせて機能を柔軟にカスタマイズしやすいというメリットがあります。
ただし、あらゆる業務を統一して管理する統合型ERPに比べると、運用やメンテナンスが煩雑になりやすい点には注意が必要です。例えば、各業務のモジュールごとにベンダーやバージョンがばらばらだと、管理のための余計な工程が発生してしまいます。
開発型ERP
開発型ERPは、業務ごとのシステム開発を前提とするタイプです。会計業務のみ、CRMのみなど、一部の業務に特化したモジュールが実装されるケースが多い傾向にあります。
特定のニーズに応える製品を選びやすい一方で、パラメータの柔軟性が限られているうえ、紹介コンサルタントや認定パートナーが少ない点には注意しましょう。なお、パラメータとはシステムを構築するための各種項目のことで、カスタマイズの自由度に影響があります。
ERP比較で失敗しないための10の選定ポイント
クラウド型とオンプレミス型では大きな違いがあるように、ERPは製品によって異なる特徴があります。合うERPも企業ごとで異なるため、選定の際は導入の目的や目標、製品の仕様などを入念に確認することが大切です。特に意識すべきポイントは以下の通りです。
1.自社のニーズに合っているか
ERPの導入目的は、自社が抱える課題の解決です。導入によって課題を解決できてこそ成果が出たといえるため、まずは自社のニーズを明らかにし、それに合ったERPを選定していくことが重要になります。「どのような課題を解決したいのか」はもちろん、それに沿った形で「クラウド型かオンプレミス型か」「統合型か個別最適型か」なども検討すべきポイントです。
また、ERP選定では、トップダウンでの戦略的な判断が欠かせません。各部門任せではなく、経営層が率先して自社のニーズを明確にし、会社全体の視点から選定を進めていくことが成功の秘訣です。
2.企業規模が適しているか
ERPには、大企業向け・中堅中小企業向け・小規模向けなどの製品があります。中堅中小企業が大企業向けの製品を選んだり、反対に大企業が中堅中小企業向けの製品を選んだりしてしまうと、コストや運用面で問題が生じる可能性があるため、企業規模に適したものを選ぶことが大切です。
どの企業規模に適した製品なのかは、搭載されている機能や導入実績が参考になります。自社と似たような業種・規模の企業の導入実績を参考にすれば、実際に運用する際のイメージを膨らませるのに役立ちます。
3.自社が必要としている業務領域に対応しているか
自社が必要としている業務領域をカバーする機能が搭載されているかは、非常に重要なポイントです。例えば、在庫管理の効率化が目的であるにもかかわらず、在庫管理機能が不十分な製品を選んでしまえば導入のメリットが薄れてしまいます。そうすると、アドオンの追加や他の製品への切り替えで余計なコストが発生するため、ERPに対応させたい業務を事前に明確化しておくことが大切です。
また、ひとまとめに基幹業務の一元管理といっても、業界やビジネスモデルによって必要な機能には違いがあります。例えば統合型と業界特化型では、同じ在庫管理でも機能に細かな違いが見られます。特定の業界ならではの課題を解決したい場合は、あらゆる業務をカバーする統合型ではなく、一分野に特化したERPを選定するのもひとつの方法です。
4.セキュリティ対策がしっかりしているか
ERPは大量のデータを扱うシステムです。重要な情報が漏れてしまえば企業の信頼問題に発展するおそれがあるため、セキュリティ面には十分な注意を払って製品を選ぶ必要があります。また、導入して終わりではなく、情報セキュリティ意識を向上するための教育を従業員に対して行うことも重要です。
クラウド型は保守運用を任せられるメリットがある一方で、セキュリティレベルもベンダー側に依存しがちな特徴があります。社外のサーバーから重要な情報が漏れる可能性があるため、「クラウド型かオンプレミス型か」も含め、ERP導入によるセキュリティリスクを検討しましょう。
5.多言語・他通貨にも対応しているか
グローバルな企業や、今後海外事業に力を入れていく方針の企業にとっては、製品の対応言語数・通貨数も考慮すべきポイントです。例えば、会計ルールは各国の慣行や法令などによって違いがあるため、会計処理や行政への申告を手作業で行うには多大な労力を伴います。そのようなときにERPで簡単に言語や通貨を切り替えられれば、業務の効率化と担当者の負担軽減が可能です。
また、ERPの中には、会計レポートを多言語で同時に作成したり、外貨取引で複数の通貨を設定したりできる製品もあります。複数の通貨で取引を行う企業の場合は、為替レートを反映できる機能があると便利です。一部の言語・通貨にしか対応していない製品では生産性が低下しかねないため、自社が必要とする言語や通貨、会計ルールなどを適用できるか事前に確認するようおすすめします。
6.システムの拡張性・柔軟性はあるか
自社のニーズに合った製品をきちんと選んだとしても、環境や方針の変化によって、ERPのカスタマイズが必要になるケースは十分に考えられます。企業の業務は日々進化していくものであるため、ERPを一度導入して終わりではなく、カスタマイズやアドオンの追加を考慮しながら選定することが大切です。
特に確認しておきたいのは、アドオンの種類や料金形態、インフラの拡張性です。いざ必要になったときに希望のアドオンを追加できなければ、課題の解決が難しくなってしまいます。ERP導入の際は「現時点で自社に合うか」という観点だけでなく、導入後の拡張性や柔軟性も考慮して製品を比較検討しましょう。
7.操作がしやすいか
ERP導入後は、経理や生産管理、販売などの幅広い部門の人がシステムを操作することになります。データを実際に入力するのは従業員であるため、ERPにあまり詳しくない人でも操作しやすく、わかりやすいUIデザインの製品を選ぶのが理想です。誰でも扱いやすい製品を選ぶことで、思うように使いこなせずにERPの強みを発揮できない失敗を避けられます。
中には、無料トライアルや無料デモが用意されている製品もあります。導入後の運用に不安がある場合は、まずは実際の使用感を確認し、問題がなければ本格的な導入を決定するのも効果的な手段です。
8.費用対効果があるか
導入によって得られる利益が、発生するコストを上回らなければ成功とはいえません。導入と運用のコストが膨らみすぎないよう、利用料金や機能のバランス、費用対効果などを慎重に見極めながら製品を選びましょう。「予算に合っているか」「長期的に見てどのような効果があるか」などを考えるのがポイントです。
ERPは、機能が多いほど良いものとは限りません。例えば、それほど企業規模が大きくない中堅中小企業が、大企業向けの製品を選んでしまうと、機能過多になる場合があります。必要のない機能に支払う料金は余計なコストといえるため、自社に本当に必要な機能とそうでない機能を見極めることが大切です。
9.ベンダーが信頼できるか
製品選びと同様に重要なのがベンダー選びです。ベンダーによってERP導入の知識や実績、得意分野、トラブル対応力には少なからず差があります。導入をスムーズに進めるためにも、豊富な知識とノウハウがあり、信頼できるベンダーを選ぶことが大切です。安易にベンダーを選んでしまえば、自社の要件とのミスマッチや、導入後のメンテナンストラブルにつながるリスクが高まります。
ベンダー選定にもトップダウンの意思決定が欠かせません。経営層が自ら信頼できるベンダーとパートナーシップを結び、長期的な協力関係を築けるかがERP導入の成功の鍵です。また、解決したい課題や要望を記載した「RFP(提案依頼書)」をうまく活用すると、信頼できるベンダーを見極めるのに役立ちます。
10.充実したサポート体制があるか
ERPを導入するには、導入計画の作成や機能のカスタマイズ、トラブル対応、メンテナンスなど、さまざまな業務が必要になります。導入が完了した後も保守運用していかなければならないため、サポート体制にも着目して選びましょう。充実したサポート体制のあるベンダーや製品を選ぶことで、導入がスムーズに進むうえ、保守運用の負担を軽減できます。
専門的な知識を持つ人材が自社に足りない場合、サポート体制は重要なポイントです。どのようなサポートを受けられるのか、あらかじめ細かく確認しておきましょう。
SAP社のERPが中堅中小企業におすすめの理由
さまざまな製品がある中で、中堅中小企業へ特におすすめなのはSAP社のERPです。SAP社はドイツの大手ソフトウェア会社であり、オラクル社やマイクロソフト社に並ぶ世界有数のERPベンダーとしても知られています。そんなSAP社が提供するERPには以下のような特徴があります。
《特徴》
・ERPシェアは世界No.1
・会計業務、販売管理、人事管理、生産管理などほぼすべての業務領域を網羅
・130か国以上の地域と40以上の言語に対応可能
SAP ERPが中堅中小企業におすすめの理由を5つ紹介します。
導入コストが下がり費用対効果が高まってきている
ERP黎明期の50年ほど前にはオンプレミス方式が主流で、導入コストが高いという課題がありました。しかし、長年の開発投資や改良により「アドオン削減」「クラウド方式の登場」「プロジェクト期間の短縮」が実現し、現在では導入コストが下がっています。従来に比べて費用対効果が高まり、ERPを導入しやすくなったのが中堅中小企業におすすめの理由のひとつです。
SAP ERPは大企業向けと考えられがちですが、実は顧客の80%が中堅中小企業です。「モバイル対応」「AI活用による対話型での操作」など年々進化を続けており、ERP導入によって費用対効果の向上を実感しやすい環境が整っています。
限られたリソースを有効活用できる
労働人口が減少している中で、従業員一人ひとりの生産性をいかに向上させるかが、多くの中堅中小企業にとって共通の課題です。SAP ERPを導入すれば円滑な業務体制を整備でき、従業員にかかる負担の軽減にもつながります。限られたリソースを有効活用できるようになることが、中堅中小企業にSAP ERPがおすすめの理由です。
また、クラウド型のSAP ERPを利用し、信頼できるベンダーに専門分野を担ってもらえば、人材確保の問題もカバーできます。労働人口の減少を背景に、いかに優良な人材を確保するかで多くの中堅中小企業が頭を悩ませている中、必要に応じて外部の力を活用する取り組みは非常に効果的です。
業務効率化ができる
SAP ERPでは社内全体の業務に関するデータを統合して管理できるため、業務効率化につながる点もメリットです。データを一元管理できる製品はほかにも存在しますが、中でもSAP ERPは世界の優良企業の業務フローをベースに開発されています。そのため、自社の業務フローをグローバルスタンダードに最適化し、効率性を高めていくことが可能です。
加えて、SAP ERPには作業履歴をユーザーIDと紐づける機能が搭載されています。誰が、いつ、何をしたのか、を正確に把握できるため、スピーディーな意思決定や問題解決にも役立ちます。
取引先からの信頼性が上がる
SAP ERPは世界No.1のシェア率を誇るERPです。認知度の低いERPでは、どうしてもセキュリティ面やトラブルへの対応力に不安が生まれてしまいます。その点、SAP ERPには数字に裏付けられる導入実績があるため、日本での認知度も高いのが特徴です。誰もが知っている製品を導入することで、取引先から信頼されやすくなるメリットがあります。
また、SAP ERPは、会計基準のグローバルスタンダードである「IFRS(国際会計基準)」に対応しています。IFRSに沿った会計処理やデータ管理が可能になり、国内の取引先だけでなく、海外の取引先からの信頼も高められる点は大きなメリットです。
データ分析・意思決定に活用できる
リアルタイムでのデータ抽出により、スピーディーな意思決定が可能になる点も、中堅中小企業にSAP ERPがおすすめの理由です。例えば、商品在庫が200個の状態で営業部門が90個の成約を獲得すると、在庫データが110個と反映されます。部門ごとのデータが即座に反映されるため、経営者は速やかな判断が可能です。
中堅中小企業が競争力を向上させるうえで、意思決定の速さは重要です。SAP ERPを導入することで経営層によるスピーディーな意思決定を促せば、ビジネスチャンスを最大限に活用できるようになります。
おすすめのERPソリューション「GROW with SAP」
先に紹介した「ERP比較で失敗しないための10の選定ポイント」にマッチする、おすすめのERPソリューションが「GROW with SAP」です。GROW with SAPは、SAP社のERP製品「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、他の製品機能や導入支援ツールを組み合わせた包括的なパッケージサービスです。
《特徴》
・SAP S/4HANA Cloud Public Editionがベース
・SAP Business Technology Platformの一部サービスと機能を利用可能
・導入支援サービスを提供
・コミュニティとラーニング(専門家と交流できる場やeラーニングコースの提供)
都度アップデートを行える利便性の高さから、これらはクラウド型サービスとして提供されています。GROW with SAPでは、クラウド型ERPのSAP S/4HANA Public Editionを利用可能です。また、一部ベンダーでは会計業務のみでERPと呼ばれる製品も見られますが、SAP S/4HANA Public Editionはほぼすべての業務領域を網羅しています。
参照元:GROW with SAP
URL:https://www.sap.com/japan/products/erp/grow.html
まとめ
ERPには、業務効率化やスピーディーな意思決定を可能にするというメリットがあります。ただ、各ベンダーが多様な製品を提供しているだけに、自社に合うものを選ぶのは非常に大変です。企業規模や導入目的によって適した製品は異なるため、各部署の意見を反映させながらトップダウンで選定していくことが重要になります。
また、ベンダーを安易に選んでしまうと、自社の要件とのミスマッチや、導入後のメンテナンストラブルにつながるリスクが高まります。利用料金や機能のバランス、費用対効果なども考慮しつつ、慎重にベンダーと製品を見極めることが、ERP導入を成功に導くポイントです。