人工知能(AI)は、近年の技術革新の象徴であり、ビジネスや日常生活で急速にその活用が進んでいます。AIの本質は、大量のデータを基に学習し、複雑な問題を解決する能力にあります。業務効率化や生産性向上を目的に、さまざまな企業がAIを導入しています。本記事では、AIの概要から具体的な活用方法、メリット・デメリット、さらには業務効率化の事例までを詳しく解説します。
業務効率化にも活用される「AI」とは
AIとはArtificial Intelligence、つまり人工知能のことです。具体的な定義は研究者によって異なりますが、大まかにいうと「大量のデータを学習し、そこから導き出したルールや法則を基に人間の知的行動を再現するもの」とされています。2024年時点では、多くの人が思い浮かべるような「何でも解決でき、人間としての感情まで表現できるAI」は存在していませんが、特定の分野において高い能力を発揮するAIは存在します。
機械学習とは
機械学習とは、AIにさまざまな種類のデータを大量に学習させ、そこからルールや規則性を見出す手法のことです。正解データを与えて関係性を認知させる「教師あり学習」、正解データなしでデータを仕分けし、ルールや規則性を見つけ出す「教師なし学習」などを活用することで、未知のデータでも予測・分析できるようになります。
深層学習とは
深層学習とは、機械学習の一種で、より深い学習と高度な分析を実現するための手法です。「ニューラルネットワーク」という人間の脳の神経細胞を模倣した多層構造のモデルを利用し、コンピューターが自分で学習して判断を下します。従来の機械学習よりも大量のデータを必要としますが、画像や手書き文字、自然言語なども認識可能で、分析や判断の精度が高いのが特徴です。
業務効率化におけるRPAとAIの違い
企業が業務効率化を図る手段として、AI以外にRPA(Robotic Process Automation)が用いられることもあります。RPAとは、主に複雑な判断を伴わないノンコア業務を自動化して効率化につなげるツールです。勤怠管理や在庫管理、顧客データ入力、競合の価格調査など幅広い業務に活用できますが、AIのように自ら学習や判断をすることはできません。一方、AIは、繰り返し作業はもちろん、問い合わせへの返信や需要予測といった複雑な判断が求められる作業にも対応できます。
ビジネスシーンでAIの活用が進む理由
近年、AIを業務に取り入れる企業が増加していますが、手間やコストをかけてまで導入を進める背景にはどのような事情があるのでしょうか。
労働力不足の深刻化
AIを取り入れる企業が増えた大きな理由は労働力の不足です。超高齢化社会に突入し、生産年齢人口が減り続ける日本では、十分な人手を確保するのが難しくなっています。しかし、従業員が業務に割ける時間には限界があります。そこで重要度の低いルーチンワークをAIに任せ、従業員がコア業務に集中できる環境を整備して、労働力不足解消に努める企業が増加しています。
働き方改革の推進
2019年から政府が推進し始めた働き方改革でも、AIの利用を後押ししています。事業者に長時間労働の是正や有給休暇の取得促進などを求める働き方改革は、人手不足に悩む企業にとっては、従業員一人当たりの労働時間が減少することで、さらなる労働力不足が加速する一因にもなっているのが実情です。
DXの推進
DXの推進も、企業がAIという新たなツールを取り入れるきっかけとなりました。DXとは、IT・デジタル技術を用いて業務はもとよりビジネスモデルまでを変革させ、企業の価値を向上させる手法です。DXを実施するには業務のIT化・デジタル化が必須であり、企業はこれまでになかった新しいツールやシステムなどに対応するよう求められています。
IT・デジタル技術のなかでもAIは業務の自動化や高度なデータ分析などを可能にするほか、業種や業界を問わず多方面で活用できる可能性を秘めていることから、多くの企業が導入を進めています。
ビジネスにAIを活用するメリット
さまざまな背景から多くの企業がAIを取り入れるようになりましたが、2024年時点では文書作成や翻訳、ソフトウェア開発、チャットボットなど、個別の業務に活用する程度に留まっているケースが少なくありません。しかし、今後は基幹システムに組み込まれたAIを使い、企業独自のシナリオで自社データを活用する段階に進むと考えられます。こうして幅広い範囲でAIを活用することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。
生産性向上や業務効率化につながる
AIは人間をはるかに上回る処理能力があり、作業スピードが速く正確性も高いのが特徴です。休憩や睡眠も必要とせず、一定のスピードで大量のデータを的確に処理できます。
そのため、導入後はこれまでよりも短い時間でルーチンワークを完了できるようになります。また、従業員がルーチンワークに費やしていた時間が減り、空いた時間をコア業務に充当できるので、業務効率や生産性の向上が期待できます。ルーチンワークのために人員を割く必要がなくなり、より重要度の高い業務に振り分けられるため、人手不足解消にも有効です。
業務の属人化を解消できる
高度なスキルや経験、複雑な判断を必要とする専門的な業務は属人化しやすく、担当者の休職・退職によって業務が滞るリスクがあります。AIを投入すれば、個人のスキルや経験に頼らずに業務を遂行することが可能です。例えば、製造業や医療現場などにおける画像診断や、異常検知、危険予知といった高度な知識を必要とする業務も、AIを導入することで効率化や自動化できるため、属人化が解消できます。
人為的ミスの削減につながる
人間が作業する場合、心身の状態や不注意、個人のスキルなどによってヒューマンエラーが生じることがあります。一方、AIは24時間稼働し続けても疲労やストレスを感じることがなく、日によって体調が変化したり、集中力が途切れたりすることもありません。常に一定のレベル・精度を保って作業をこなせるので、人為的なミスの低減に役立ちます。
安全性の向上が期待できる
まだ構想・開発段階の技術も多いですが、危険度の高い業務でAIを活用し、事故やケガを防いで安全性を高めることも可能です。
例えば、高速道路の点検にAIを導入し、高解像度カメラを用いた画像診断でメンテナンスが必要な箇所を調べることで、業務効率を向上しつつ、作業員の事故リスクを減らす取り組みの実用化が進んでいます。
ダムや鉄塔、坑道の監視を任せたり、長距離トラックの運転を代行させたりといった使い方も検討・実用化されています。検品作業などでいち早く機械や製品のトラブルを検知するなどの使い方もされており、幅広い業務で活躍が期待されています。
ビジネスにAIを活用するデメリット
さまざまなメリットが期待できるAIですが、業務に取り入れる際には一定のデメリットがあることも理解しておく必要があります。
情報漏えいのリスクがある
AIを業務で利用するには大量にデータを与えて学習させる必要がありますが、その中に顧客情報や人事情報、仕入れ先情報といった機密情報が含まれることも少なくありません。社内システムがハッキングを受けるなどした場合、そうした重大な情報が外部に漏れてしまうリスクがあります。
そのため、導入にあたっては情報セキュリティ関連の社内規定やルールを整備する、従業員に情報セキュリティの教育・研修を行うなどして、情報漏洩を未然に防ぐための対策を徹底することが重要です。
責任の所在が不明確になりやすい
AIを業務に取り入れることによって、トラブルが生じた際の責任の所在がわかりにくくなるというデメリットもあります。仮にAIを搭載した機械や自動車などが事故を起こしたとします。この場合、機械や自動車の操縦者・所有者・製造者の誰に責任があるのかがわからなくなる場合があります。
新しい技術であるAIは、分野によっては法整備が追いついていないなど、課題が残る部分は少なくありません。万が一の事態に備え、どのような責任が生じるのか整理・把握してリスクヘッジをすることが大切です。
思考プロセスがブラックボックス化しやすい
思考プロセスがブラックボックス化することから、AIが導き出した結論の正確性を人間が確認できず、せっかくの分析結果を意思決定に使えない可能性があります。対応策としては、AIが不正確な判断をしていないか監視し、その思考プロセスを可視化するソリューションを活用する方法などがあります。また、人命や資金、財産などに関わる重要な業務については、AIの判断を鵜呑みにせず、最終的な判断は人間が行うなどの対策が必要です。
AIを活用した業務効率化の事例
AIを業務に取り入れたいとは思っているものの、どのような場面で活用したらよいのかわからない方もいるもしれません。そこで、AIを業務効率化に役立てる具体的な事例を紹介します。
問い合わせ対応の効率化
AIの活用が進んでいる業務のひとつに問い合わせ対応があります。カスタマーサービスやヘルプデスクには、日々大量の問い合わせが届くため、対応に時間がかかって相手を待たせてしまうことも少なくありません。そこで、定型文で回答できるような単純な問い合わせについてはチャットボットに任せ、従業員は有人対応が必要な複雑な問い合わせのみに対応するようにすれば、大幅な業務効率化が期待できます。
回答が得られるまでの待ち時間が短縮されるうえに、営業時間に関係なく24時間365日いつでも利用できるので、サービスの向上にもつながります。また、迅速な顧客対応によって「電話がつながらない」「回答が遅い」といった顧客の不満が解消され、クレームが減少すれば、従業員のストレス軽減にも役立ちます。
営業活動の効率化
営業担当者が時間を取られがちな議事録や提案書の作成、名刺データの入力などを自動化して、営業活動の効率化に活かすこともできます。
このようなノンコア業務から解放され、顧客とのコミュニケーションや商談に使える時間が増えれば、成約率アップにつながるかもしれません。
顧客情報を収集・分析して見込み客を洗い出したり、見込み客の行動パターンや好みを予測して最適な商品を提案したりするような使い方も可能です。人間の経験や勘に頼ってアプローチする顧客・取引先を選定するのではなく、データに基づいた的確なターゲティングを行うことで、受注の確率を高めることができます。
さらに、優秀な担当者の営業トークの音声データをAIで解析し、商談のノウハウを他の営業担当者に共有することで、個人レベルでのスキルアップだけでなく、営業部門全体での能力強化につながります。
採用活動や人材管理の効率化
AIは採用活動や人材管理など、人事部が担う業務にも対応可能です。例えば、大量のエントリーシートを手作業でチェックし、振り分ける作業には膨大な時間がかかりますが、評価基準を学習させたAIを投入すれば、基準に到達しているかどうかを瞬時に判断できるので、煩雑な採用業務の効率化が進みます。
また、従業員の人事評価を行う際も、明確な基準を設定してAIに判断させることで、上司の主観や感情に左右されない公正な評価を下すことができます。従業員のスキルや適性、パフォーマンスを分析し、その結果に応じて最適な部署に配置するといった使い方もできるため、従業員のモチベーションアップや、活躍機会の拡大にも貢献します。
在庫管理と需要予測の効率化
在庫管理や需要予測はAIの得意分野です。リアルタイムの在庫状況に加えて過去の販売データや天候、気温、原油価格など、さまざまなデータを多角的に分析し、適切な在庫管理や将来の需要予測が行えます。AIによって需要の増減を予測し、それに応じて在庫数や発注数を調整すれば、需要の変動にもすばやく対応できます。人間の判断や予測よりも精度の高い結果が得られるため、過剰在庫を抱えてコストが増大したり、欠品により販売機会を逃したりする事態の防止に効果的です。
市場の動向やトレンドなどが予測できれば、それに基づいた販売計画の立案やマーケティングなどにも活かせます。AI搭載のERPを導入して入出庫管理や在庫管理、商品の棚卸などの情報を一元化し、業務効率を高めることにも役立ちます。
検査・検品の効率化
製造業はAIとの相性が良く、さまざまな業務で活用が進んでいます。製造業において、製品の品質保持は企業の信頼につながる非常に重要なものです。しかし、人間が手作業で検査する方法では、経験値によって不良品の判断基準が異なったり、異物混入を見落としたりする場合があります。
AIに検査・検品を任せれば、製品の色や形、サイズ、温度に問題はないか、異物が入り込んでいないかなどを常に一定の基準で判断できる上、見落としもありません。また、人間よりも判断スピードが速く、長時間休まずに稼働し続けられるため、業務効率が大幅に向上します。
なお、検査・検品作業にセンサーが用いられる場合がありますが、センサーは製品についた汚れや小傷などの「見た目」での判断ができません。しかしAIであれば、画像診断などによって人間の目視と同じようにチェックできるため、検査・検品の精度向上が期待できます。
異常検知・設備保全の効率化
AIは異常検知や設備保全にも利用されています。機器や設備は異常が発生する前に何らかの予兆が見られるケースが少なくありません。そこで、あらかじめAIに機器や設備のデータを読み込ませて正常値を学習させておき、正常値から外れたときにアラートを表示させるなどして異常を検知します。
人の目ではわからない僅かな変化も感知でき、見落とすことがないため、トラブルを未然に防げるのがメリットです。映像・画像データからひび割れや剥がれなどを見つけ出し、建物や設備の劣化状況を調査するなどの使い方もされています。
また、建設業では、従業員と重機の接触事故を防ぐ対策としてAIの活用が進行中です。AIカメラで人間のみを検知し、重機と人間が近づきすぎるとアラームを鳴らす近接センサーを搭載した製品などが登場しています。そのほかにも過去データを分析して機器の故障を予測する、製造販売時の顧客の分類を行うなど、多方面でAIが取り入れられています。
過去データの収集やデータ分析の効率化
膨大なデータをAIで収集・分析して経営判断やマーケティングに活かすことも可能です。IT・デジタル技術の進化によって、企業は多くのデータを獲得できるようになりました。
しかし、ビッグデータは形式が統一されておらず、分析に不要なデータが含まれていることも多いため、必要なデータのみを抽出して前処理(クレンジング)を行わなければ活用ができません。
これらの作業を人間が手作業で行おうとすると、膨大な手間と時間がかかります。さらに途中で入力間違いや入力忘れなどのヒューマンエラーも起こりやすく、精度の高いデータを抽出することが困難です。
そこでAIを利用すれば、短時間で膨大なデータを処理し、分析に使える形式に整えられるため、迅速な意思決定に寄与します。また、人間が分析するよりも精度の高いデータを得られるため、より効果的なマーケティングを実施しやすくなります。
大量の過去データを参照して必要な情報を瞬時に見つけることも容易です。AIを活用した社内向けの質疑応答システムを制作すれば、従業員が疑問をすぐに解決できるようになるため、業務効率が向上します。
AIを活用した業務効率化を成功させるためのポイント
前項で紹介した通り、AIは幅広い業務で活用可能です。しかし、目的が曖昧なまま導入しても、上手く活用できないまま終わる可能性があります。そこで、AIによる業務効率化を成功させるために、押さえておくべきポイントを紹介します。
目的を明確にしてツールを選択する
AIによる業務効率化を成功させるには、明確な目的を設定することが大切です。AIが対応可能な業務は幅広く、ツールの種類も多いため、どの業務のどのような課題を解決したいのかが明確でないと、適切なツールが選べません。
自社の業務に合う適切なツールが選べなければ、業務効率化の効果が得られなくなります。さらには導入しただけで活用されないまま放置されたり、かえって業務が煩雑になり作業効率が落ちたりするおそれもあります。
また、いきなり多くの業務で活用しようとすると現場が対応しきれなくなる可能性があるため、業務改善の優先度も明確にし、優先度の高いものから着手しましょう。
AIの対応範囲を明確にする
AIは複雑な業務にも対応可能ですが、すべての業務を代行できるわけではありません。また、導入する範囲を広げれば、それだけコストも増えていきます。すべてをAIに任せることは現実的ではないため、AIに対応させる範囲と人間が担うべき領域の線引きを明確にする必要があります。
また、場合によっては、AI導入にかかるコストを回収できるほどの改善効果は得られないかもしれません。費用対効果を考え、本当にAIを取り入れる必要があるのかどうかも検討することが重要です。
データの学習やメンテナンスを行える体制を整える
AIは初めから完成されたツールではありません。業務効率化に活かすには、事前に必要なデータを与えて学習させる必要があります。先の工程で決めた対応範囲の業務をこなすにはどのようなデータが必要なのかを考え、AIがスムーズに学習できる体制を整えましょう。
また、作業精度を上げていくには、運用開始後もデータのメンテナンスが欠かせません。定期的に効果をモニタリングし、期待した効果は得られているかを確認します。精度に問題がある場合は、データを再学習させるなどのメンテナンスが必要です。あらかじめモニタリングのタイミングや再学習の方法を決めておくなど、継続的に使い続けるための体制を構築しておきましょう。社内で学習・メンテナンスの体制を整えるのが難しい場合は、外部の専門業者の力を借りることも検討するのもひとつの方法です。
セキュリティ対策を行う
先述の通り、AIには顧客情報や人事情報、社内マニュアルなどの機密性が高いデータを学習させる場合があります。万が一これらの情報が漏洩すると、企業の信頼低下を招きます。
そのような事態を防ぐためにも、セキュリティ関連のルール整備や、教育・研修などを行い、セキュリティ対策を徹底することが大切です。可能であれば、AIのセキュリティに精通した担当者を常駐させることも検討してみましょう。
また、ツール選定の際に、どのようなセキュリティ対策が施されているのかをチェックすることも重要です。
導入・運用コストを把握しておく
AIによる業務効率化には相応のコストがかかります。導入・運用にどれくらいのコストがかかるのかを把握しないまま導入すると、「コスト削減に役立てるはずが、逆にコストが増えてしまった」というような問題が発生しかねません。
ツールの導入コストやランニングコスト、データの再学習コスト、セキュリティ対策にかかるコストなどを試算し、その上で中長期的な予算計画を立て、費用対効果を分析することが大切です。
まとめ
AIはルーチンワークから複雑な業務まで幅広く対応でき、業務効率化はもちろん、人手不足の解消やDX推進などの手段としても役立ちます。
ただし、やみくもに導入しても、上手く活用できないまま終わる可能性があります。どのような業務に活用できるかを考え、費用対効果を考慮した上で導入するかどうかを決めることが大切です。
AIツールにはさまざまな種類がありますが、SAP Business AIをはじめ、AI搭載のERPを導入すると、さらに業務効率化が加速します。複数のツールを比較検討し、自社の導入目的に合うツールを探してみましょう。
ERPおよび財務向け人工知能|SAP Business AI
(URL:https://www.sap.com/japan/products/artificial-intelligence/finance.html)