経営視点のERP導入目的、検討方針の明確化
なぜやるのか、何を目指すのか、どのように実現するのか、いつまでに実現するのかまずは課題整理・目標設定を行います。
Why
なぜERPを導入するのか、何を目指すのか
What・When
何をいつまでに達成するのかどんな姿なのか
ERP導入検討のポイント
DX化を進めることは会社にとって重要なことだと理解しながら、ERP導入というと「コストをかけても失敗しがち」という印象をお持ちではないでしょうか?
ERPに限らず、大規模プロジェクトの失敗事例のニュースを目にすることもしばしば、過去には「動かないコンピュータ」という特集が雑誌で組まれたこともありました。実際に、「当初の目的が達成できない、コスト肥大、スケジュール遅延」といった事態に陥ってしまい失敗と呼ばれてしまったERP導入プロジェクトが多くあったことも事実でしょう。
失敗が多いとされてきたERP導入ですが、過去の様々な失敗を学びに変えることで”日本固有の失敗傾向”を明確に特定し「失敗しないERPの検討方法・進め方」が確立されてきています。
例えば導入の対応方法については、ERPの業務プロセスだけでなくその導入方法論も1つのベストプラクティスとして標準化して構想から導入まで流れに沿っていくことで、導入、運用をスムーズに進めていくことができるようになります。ERP導入方法論がプロジェクトを成功のさせる秘訣ともいえ、こうした導入方法論を生かすためには、その前段でしかるべき検討の進め方が必要となります。
SAPのユーザーコミュニティ「JSUG」が2002年に決めたERP導入の10ヶ条というのをご紹介します。ERP導入プロジェクトを推進する上で徹底すべき普遍的な内容となります。
ERP導入プロジェクトは大きく3つ、検討・導入・運用のフェーズに分けて考えることができますが、 この10項目を3つのフェーズに分類してみると、ほとんどの徹底すべきポイントは検討フェーズにあることがわかります。
次のグラフは日本情報システムユーザー協会が2021年に実施した調査で、実際にソフトウェアを導入した企業に対してQCD(品質、コスト、納期)に影響が出たフェーズと、その影響の原因となったフェーズについてヒアリングした結果をまとめたものです。
このグラフからも検討フェーズでの問題特定・解決は、最も念入りに行う必要があると言えます。
ERPに限らずあらゆるソフトウェアを導入する上で、検討フェーズに注力する重要性・必要性がご理解頂けるかと思います。
あらゆるプロジェクトにおいて検討フェーズはプロジェクトの入り口、上流にあたる部分となります。
ERP導入のような全社を巻き込む大規模プロジェクトでは、プロジェクトの大きさに比例して時間を要し、関わってくる人数も下流工程に行くほど多くなります。
上流のフェーズで決定事項がぶれた場合、下流フェーズのぶれはさらに大きくなり、挽回は限りなく不可能になってしまいます。では、具体的になにを検討すべきでしょう。
検討フェーズで抑えるべき重要なポイントは「経営視点のERP導入目的、検討方針の明確化」「実現方法の確認」「検討体制の構築」の3点に集約されます。
なぜやるのか、何を目指すのか、どのように実現するのか、いつまでに実現するのかまずは課題整理・目標設定を行います。
なぜERPを導入するのか、何を目指すのか
何をいつまでに達成するのかどんな姿なのか
明確になった拠り所(業界のベストプラクティス)にどう合わせていけるのか確認して課題・目標を実現に向けて導入計画・準備について確認しましょう。
どのような方法で実現するのか
どのくらい期間がかかるか、どのくらいの投資が必要か
プロジェクトを成功させるために体制構築は大きく影響します。
なぜERPを導入するのか、何を目指すのか
誰が推進するのか、誰が支援するのか
この3つのポイントを検討フェーズでしっかり抑えるためには、Why(なぜ)、What /When(何を、いつまでに)、How(どのように)、How long/much(どのくらいで)、Who(誰が)、といった当たり前の要素を徹底的に明確にすることが大切です。
ERPをはじめとしたソフトウェア検討では投資額も大きく、入れ替えが容易ではないため、検討フェーズでこれらの要素を徹底的に長期目線で明確・明文化することがとても重要となります。
ERPを導入する上で、経営戦略、事業計画実現に向けたプロジェクトの意義を各ステークホルダー間で理解することは必要不可欠です
売上目標や、利益目標は当然かもしれませんが、例えば「売上目標350億達成のため」「顧客のニーズに答えきる業務基盤への刷新」など中期経営計画に紐づけることで「Why:なぜERPを導入するのか」という導入理由は明確化されます。
会社としてあるべき姿・ありたい姿などの会社としてのビジョンにも紐づけてERP導入目的を考えることが重要です。
例)プロジェクト成功のためのSAP導入方法論(SAP Activate)
経営理念 | 常に技術の向上を図り高品質な製品を適正に供給することにより、人々の健康に貢献し社会的信用を確保し、会社の写真の発展と社員の幸福を求めて事業を進めてまいります。 |
中期経営計画 |
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取組重点項目 |
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何を目指すのかという観点では、入力方法云々などの部分最適や現場レベルの話ではなく、経営課題に繋がるような粒度の課題が整理されていることが必要です。
例えば、ある企業では課題を4つのテーマに分けて整理して、その解決策として実現したいことをシンプルに明示しています。
検討フェーズ「課題:基幹業務/マネジメント層ヒアリング」の資料例
明確になった目的や目標の実現方法を定めておくことも重要不可欠です。
せっかく目的を明確にしても、実現方法が旧来のシステム導入のやり方では現行システムの踏襲になりがちです。経営改革を行うためにはERPを最大活用するためのアプローチをとる必要があります。ERPを最大活用するための検討の進め方をご説明します。
従来、現行業務を整理し、課題や要件を取りまとめたら、それらをベースに新システムにおける機能要望や業務フローをまとめます。スクラッチ開発や、開発を前提にするパッケージを用いて現行業務を置き換えることを目指すようなプロジェクトであれば有効かもしれません。しかしERP導入においてはベンダーにこのような形でまとめたRFPを提示しても回答ができない、もしくはアドオン開発だらけとなりコストも高くなってしまうでしょう。これではプロジェクトは真逆方向に向かい失敗につながってしまいます。
ERP導入を成功させるためには、まず先にこのプロジェクトの目的目標を経営視点で整理し、それらを達成するために解決すべき課題をまとめます。ERPパッケージを想定した上でそこに定義される標準の業務プロセスを下敷きにして設計します。
Howは机上で書かずに、ERPの中のプロセスを先に確認して新たな業務の在り方を議論します。
ERPを比較される際には業界特有の雛形があるか、判断基準として寄り添える下地があるのかという点も大きなポイントになるでしょう。
参照できる雛形がなく、ゼロベース・現行踏襲型でカスタムを繰り返すとASISに基づく評価・設計になり、業務の標準化、シンプル化が進まず網羅性低く追加開発が多くなるリスクが生じます。
一方で豊富な業務プロセスの雛形があれば、雛形を参考にしながら世間一般と自社の業務プロセスはどこが違うのか、変えるべき点、残すべき点の議論をしながらプロジェクトを進めていくことができます。
さらには、実績に裏付けられた信頼できる業務雛形を下敷きに業務の標準化、シンプル化、業務品質向上を推進して、抜本的な業務改革を実現することができます。
体制の構築は、先述で説明した2つの要素「経営視点のERP導入目的、検討方針の明確化」「実現方法の確認」を実現する上でも大変に重要なポイントになります。
社内システムの刷新というと、システム部門を中心にして体制を構築するケースも少なくないと思います。
またDX推進本部という名でDXを冠した組織が設置されつつ、「とりあえず部署を作ったから検討してほしい」「改善してくれ」と、非常にざっくりとした意見が上から落ちてくることも珍しくないと思います。
しかし、経営層の意思や業務部門の理解がない施策では、結局何も進まず、プロジェクトが失敗に終わってしまいます。
今後数十年を支える会社基盤になることを理解して、業務部門では将来像を描ける中核メンバー、いわゆるエース社員をプロジェクトに選抜すること、そして経営層が自分ごととして参画することが重要です。経営企画、IT、関係業務部門など部門を横断して体制の構築と経営トップが参画して、部門横断で判断が出来る経営メンバーをアサインして、三位一体で検討していくことが非常に重要なポイントとなります。