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SAPの2027年問題とは?システム刷新に向けた今後の対応策

作成者: クラウドERP導入ガイド編集部|2024/12/17

2027年末に予定されている「SAP ERP 6.0」の保守サポート終了に伴い、さまざまな問題が懸念されています。本記事では、SAPの「2027年問題」の概要や背景について解説し、企業が今から取り組むべき具体的な準備方法を詳しく紹介します。また、「SAP S/4HANA」への移行にとどまらず、多角的な視点で最適な解決策を見つけるためのヒントもお届けします。自社の状況に応じた選択肢を検討し、将来的なリスクを軽減するための参考にしてください。

SAPの2027年問題とは?

2027年問題とは、「SAPERP6.0」の標準サポート終了(2027年末)により、国内ユーザーが直面する可能性のあるさまざまな問題の総称です。サポートが終了すると、修正プログラムの提供や新機能追加、システム品質の改善が行われなくなるため、セキュリティ上のリスクが高まります。

これに対して、企業は2027年末までに対応策を講じる必要があります。選択肢としては、現在利用中のSAP製品を標準サポートなしで継続する、他社のERP製品に切り替える、または「SAPS/4HANA」に移行するというものがあります。SAP社のERP製品は国内企業にも広く浸透しており、それに関連する2027年問題は、多くの企業の共通課題といえます。

2027年問題の背景:進まないSAPERPからの移行

現代において、企業が直面する課題のひとつは、リアルタイム性の高いシステムを構築することです。しかし、度重なるバージョンアップの影響でシステムが肥大化し、運用が困難になることもあります。そこで、SAP社はリアルタイム性を実現する「SAPS/4HANA」を開発しました。当初、この移行は2025年末までに完了することが期待され、「2025年問題」として注目されていました。

しかし、多くの企業はERP移行の準備が間に合わないという理由に加え、移行コストや業務プロセス変更の懸念から、標準サポート期限が2027年末に延長され、これが「2027年問題」として知られるようになりました。

過去には、既存業務に合わせすぎたことや、ERPを十分に理解していない導入ベンダーの影響、クラウド技術の未発達により進化の速度が遅く、アドオンが必要になるなどの理由で、多くの失敗が生じました。多くの企業がサポート延長を希望した背景には、ERP移行が困難であるという現実があります。過去のシステム導入における失敗や、アドオン開発の複雑さからくるネガティブな印象が情報更新を阻み、移行のスムーズさを欠いているのが現状です。

2027年問題に向けた対応策

多くの企業が、2027年のシステムサポート終了という大きな転換期を迎えるにあたり、それに伴うシステム対応を喫緊の課題として捉えています。この問題に直面する企業が、今後どのように対応していくべきか、具体的な対策を交えて詳しく解説します。

最新のERP「SAPS/4HANA」へと移行する

SAP社の最新ERP製品「SAPS/4HANA」への移行が、最も推奨される対応策です。SAP社製品であるため、使用感や既存のノウハウを最大限に活用できるという大きな利点があります。

また、最新機能を搭載しているだけでなく、クラウド化による柔軟性やコスト削減のメリットも享受できます。さらに、「SAPS/4HANA」は高速なインメモリデータベース「SAPHANA」を採用しており、迅速なデータ処理が可能です。

ただし、移行には初期費用や要件定義、アドオンの調整といった難題が伴いますが、長期的には業務効率化と運用管理コストの削減が期待できます。

SAP以外のERPに移行する

既存のシステムに縛られず、業務プロセスを根本から見直したい場合、SAP以外のERPへの移行が有効です。ただし、「SAPS/4HANA」に移行する以上の影響や時間、コストが生じる可能性もあります。この選択肢を検討する際には、「SAPS/4HANA」と他社ERP、それぞれへの移行に伴う影響やコストを十分に比較することが重要です。

延長保守によってサポート期間を延ばす

延長保守を利用し、ライセンス料金の2%に相当する費用を支払うことで、サポート期間を2030年末まで延長できます。対象は、「SAPERP6.0」でエンハンスメントパッケージ(EHP)6以上が導入されているバージョンです。ただし、EHP5以下のバージョンは2025年末でサポートが終了となるため、更新が必要です。この延長により、現場での混乱を防止できます。

しかし、延長保守は検討期間を延ばすためのものであり、根本的な問題解決にはなりません。競合企業が新しいERPシステムを導入する中、競争力の差が生じる可能性があります。また、延長保守を利用する場合でも、将来的なシステムの更新や移行を見据えた計画が必要です。

延長保守のメリットとして、現行システムのサポートが継続されるため、短期間のリスクを軽減できることが挙げられます。また、サポート期間が延長されることで、新しいERPシステムへの移行準備を計画的に行う時間が確保されます。

一方で、競合他社が新しいERPシステムを導入する中、延長保守に依存することで競争力の低下が懸念される点や、根本的なシステムの更新や改善が行われない場合、長期的なリスクが増大する可能性がある点には要注意です。延長保守を選択する際には、これらのメリットとデメリットを十分に検討し、適切な判断を下すようにしましょう。

SAPS/4HANAへの移行方法

デジタルトランスフォーメーションを推進する企業にとって、「SAPS/4HANA」への移行は避けて通れない課題です。この移行プロセスは、システムの効率化やビジネスプロセスの最適化を実現するための重要なステップです。

以下では、「SAPS/4HANA」に移行するための3つのアプローチについて解説します。それぞれ異なる特徴とメリットがあるため、企業のニーズや現状に応じた最適な方法を選択しましょう。

コンバージョン方式(BrownField)

コンバージョン方式(BrownField)は、現行のERPシステムの設定や要件を維持しつつ、それらを「SAPS/4HANA」のデータ構造に変換して移行する方法です。

このアプローチの主なメリットは、既存システムのカスタマイズ要件を引き継げるため、現場での混乱や業務への影響を最小限に抑えられる点です。現行の業務プロセスや設定を維持しつつ、新しいシステムに移行できるので、移行期間中の業務の滞りを軽減できます。

一方で、既存の業務プロセスや設定をそのまま引き継ぐため、現行システムの課題や制約もそのまま持ち越すことになる点は注意が必要です。このため、「SAPS/4HANA」の持つ本来の機能やメリットを十分に活かしきれない可能性があり、新たな業務改善の機会を逃すリスクが伴います。

リビルド方式(GreenField)

リビルド方式(Green Field)は、既存のERPシステム要件を「SAPS/4HANA」に乗せ換えるのではなく、「SAPS/4HANA」を導入して新規にERPを再構築する方法です。この方法では、既存の業務プロセスの見直しが前提となり、「SAPS/4HANA」の業務プロセスに合わせた(FitToStandard)形での導入を目指します。ただし、現状を大きく変更する必要があるため、現場への影響度が高くなる可能性があります。加えて、ERP移行にかかる時間やコストも大きくなるため、慎重な計画と実行が求められます。

BLUEFIELD方式

BLUEFIELD方式とは、システムを優先的に「SAPS/4HANA」に移行し、データはあとから統合する方法です。このアプローチは、リビルド方式(Green Field)とコンバージョン方式(Brown Field)の中間に位置し、両方のメリットを活かせます。BLUE FIELD方式では、移行にかかる時間がリビルド方式の1/4に短縮されるため、企業の移行プロジェクトを迅速に完了することが可能です。SNP社のツールを利用することで、データとシステムの効率的な分離および移行が可能となり、新たな業務プロセスの構築を支援できます。

参照元:SNP
(URL:https://www.jsug.org/2022solution/snp

2027年問題に向けて企業がするべき準備

最後に、2027年問題に向けて企業が取り組むべき準備について、3つのポイントに分けて解説します。

ERP導入に関する情報をアップデートする

ERPの導入に関するネガティブな印象を刷新するためには、最新のERP導入方法について理解することが重要です。従来の「Fit&Gap」アプローチでは、自社の業務プロセスにERPを適合させるためにアドオン開発が多く必要で、コスト増大や不具合が多発しました。

しかし、現在では「FitToStandard」アプローチが主流となっています。これは、ERPの標準的な業務プロセスに沿って自社の業務プロセスを調整する方法で、アドオン開発を最小限に抑え、業務プロセスの革新を促進します。

業務標準化を行う

業務標準化は、ERPの「FitToStandard」に対応するための重要なステップです。設定したルールに従い、業務プロセスを見直して標準化することで、従業員の業務フローが統一され、業務の属人化を防ぎます。これにより、組織全体の業務品質が安定し、作業時間の削減や生産性向上も期待できます。また、標準化された業務はERP導入時に容易に適合し、システムの標準機能を最大限に活用できるため、無駄なコストを抑えつつ、効率的な業務運営が可能です。

IT人材の確保を検討する

2019年の経済産業省の発表によると、2030年までに最大78.7万人のIT人材が不足する見込みです。特にERPエンジニアの需要は2027年問題により急増するため、企業は早期にIT人材の確保を検討する必要があります。

参照元:経済産業省委託事業IT人材需給に関する調査
(URL:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
※P17をご覧ください。

IT人材の不足は、企業のシステム移行や運用に大きな影響を及ぼし、対応策の遅延や障害のリスクが高まります。高度なスキルを持つ人材の育成と確保は不可欠であり、企業は迅速な経営判断を行い、IT人材の確保を進めることで、今後のビジネス環境に適応できる体制を整えることが重要です。

まとめ

「SAPERP6.0」の標準サポート終了に伴う2027年問題。この問題は、企業の業務に深刻な影響を与える可能性があり、多くの企業が対応に追われています。

主な原因は、「SAPERP6.0」の老朽化によるセキュリティリスクの増大と、新機能の追加が停止されることによる業務効率の低下です。企業は、「SAPS/4HANA」への移行、他社ERPへの乗り換え、またはサポート期間の延長といった選択肢を迫られています。

しかし、ERP移行には高いコストや専門知識が必要となるなど、多くの課題が存在します。また、過去の失敗経験や複雑なシステム環境が、企業の決断を遅らせていることも否めません。

企業は2027年問題に対応するため、ERP導入に関する最新情報を収集し、業務標準化を進める必要があります。さらに、IT人材の確保も急務です。これらの準備を進めることで、企業はスムーズなシステム移行を実現し、DXを加速させられます。

2027年問題は、企業のIT環境を根本から見直す絶好の機会です。この問題を乗り越えるためにも、経営層から現場まで、全社一丸となって取り組みましょう。