SAP BTP(Business Technology Platform)はSAP社が提供するクラウドベースの統合プラットフォームです。
SAPアプリケーションの開発や拡張が柔軟に行える上さまざまなアプリケーションとも連携できることから、DXの実現にも効果的なサービスです。本記事ではSAP BTPの概要や代表的な機能、活用例や導入事例について詳しく解説します。
1.SAP BTPとは
SAP BTP(Business Technology Platform)とは、ドイツのSAP社が提供するクラウドベースの統合プラットフォームで、PaaS(Platform as a Service)に分類されます。データ分析やアプリケーション開発、自動化など複数の機能を1つの環境で運用できます。
SAP BTPはSAP製品との連携に最適化されていますが、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなどの主要なクラウドサービスプロバイダー上でも展開可能です。
さらにSAP社のクラウドERPソリューションをクリーンコアアプローチで導入するうえで必須となるプラットフォームです。
クリーンコアアプローチとは、SAPソリューションの標準機能を最大限に活用し、カスタマイズを最小限に抑えることを目指すアプローチです。
たとえば、クラウドERPを極力アドオンせずに導入し、クリーンコアアプローチで網羅できない部分はSAP BTPのローコード/ノーコード開発ツールを活用することで、SAP BTPを開発基盤として利用することが可能です。
さらに他システムと連携するAPI基盤としても活用できるため、クラウドERPとの組み合わせにより、企業の業務プロセス全体を統合するソリューションを構築できます。
2.SAP BTPの機能
SAP BTPのさまざまなアプリケーションは、幅広い業務に活用できます。
データとアナリティクス
SAP Datasphereはデータの統合、データウェアハウス、カタログ化などの機能を有し、企業内の幅広い分野のデータを統合することで、統合されたデータをもとにした精度の高い意思決定プロセスを促進できます。
またSAP Analytics Cloudはデータ分析や可視化、企業の予算編成や管理などの領域を担い、インサイトから実行可能な計画を迅速に作成する役割を果たします。
人工知能(AI)
SAP AI CoreやSAP AI Business Servicesを通じて、人工知能や機械学習の機能を業務アプリケーションに組み込むことができます。自然言語処理や画像認識などの技術によって、業務プロセスの効率化や迅速な意思決定を支援することも可能です。
SAP Conversational AIを活用すればチャットボットを構築することもできます。
アプリケーション開発
アプリケーション開発には主要な2つのソリューションがあり、プロコードによる本格的なアプリケーション開発にはSAP Business Application Studio(BAS)が適しています。
一方で、ローコード/ノーコードでの開発に対応したSAP Buildを用いれば開発の専門知識がない人でもアプリを作成できます。生成AIツールを活用することもできるため、開発工数の削減につながるでしょう。
自動化
SAP Build Process Automationの自動化機能により、RPAやワークフローを利用したルーティン業務やデータ処理の自動化が可能です。
自動化によって従業員の手作業によるエラーを削減できるほか、各種の自動化ツールがSAPシステムに統合されることで、全社的な業務フローの最適化にも寄与します。
ドラック&ドロップなどの直感的な操作で実装できるため、一般のビジネスユーザーも利用しやすいでしょう。
統合
SAP Integration Suiteの活用により、オンプレミスとクラウドベースの異なるアプリケーションやデータソースを連携させて複雑な業務プロセスを一元化することが可能です。
事前に構築済みの統合フローやAPI管理機能を用いてSAPやサードパーティシステムを安全かつ迅速に統合・接続することで、データとプロセスの整合性を高めることができます。
またSAP Data Intelligenceでは、異なるデータ環境に散らばるデータ管理の自動化、強化が可能になります。
3.SAP BTPの活用例
SAP BTPの具体的な業務での活用例を紹介します。
信頼性の高いデータ基盤の構築
SAP BTPではSAPやサードパーティで管理するデータを統合管理し、データの品質や整合性を高めることが可能です。
データの重複排除、標準化、強化によって複数のソースにわたるマスターデータを統合し、重複する不要なマスターデータレコードを特定して削除することもできます。
一元的なマスターデータの管理基盤を構築することでデータの品質・透明性が向上し、経営層のみならず従業員の意思決定速度と正確性を高めることが可能となります。
財務計画と分析の合理化
SAP BTPによるデータの統合により、財務、計画、分析、レポート作成を1つのプラットフォームで迅速に行えるようになります。データには常にリアルタイムでアクセスできる上、AIを活用した計画の予測やスピーディなインサイトの取得も容易に行えます。
予測計画とリアルタイムのインサイトを組み合わせることで予測の精度が高まり、市場環境の変化への柔軟な対応が期待できるでしょう。レポートや予測から常に最新の情報やデータを取得できるため、意思決定の精度を高めることにも役立ちます。
4.SAP BTPの導入事例
SAP BTPの企業での導入事例を紹介します。
Uniper社
ドイツに本社を置き電力事業を行うUniper社は、業務部門全体のビジネスプロセスの革新を目的にSAP BTPを導入しました。
同社はSAP BTPをSAP Mobile ServicesやSAP Fioriなどの既存のアプリケーションと組み合わせた開発をすることにより、プラント管理、調達、ITなどの部門を超えた合理化に取り組みました。
SAP BTPの導入により請求書や注文書、人事関連の申請を外出先で管理可能となり、AIやワークフローを活用してミスが発生しやすい手作業のプロセスの最適化を実現しました。
結果的にリモートワーク申請を処理する際の生産性が70%向上、調達業務の権限委任に要する時間が80%短縮されるなどの効率化を実現しています。
Nestlé社
食品・消費財を扱うスイスのNestlé社は、社内DXの一環としてSAP BTPと
SAP Success Factorsを組み合わせて使用し、採用から退職までの人事プロセスの標準化・自動化に着手しました。
具体的には、SAP BTPを導入し、週に数千人の入社希望者から寄せられる質問に対して20ヶ国語以上に対応したチャットボットが自動で回答する体制を構築したのです。
人事グループはより重要な仕事に専念できるようになったことで生産性が向上し、同社全体でもクラウド化を推進した結果、1,200TBに及ぶデータのクラウド移行とシステム可用性99.97%を実現しています。
5.まとめ
SAP BTPは、データ分析、アプリケーション開発、自動化、AIの活用といったさまざまな機能を備え、導入によって業務の効率化や生産性向上を実現できるプラットフォームです。
また、クラウドERPをクリーンコアアプローチで導入し、企業の業務プロセスを幅広く最適化するために不可欠なソリューションでもあります。
業務プロセスの非効率や業務基盤の課題を抱える企業にとって、SAP BTPは有効なソリューションとなるでしょう。